野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

ひさしぶりに(おんな)(さん)(みや)様のところにいらっしゃったから、源氏(げんじ)(きみ)はすぐに二条(にじょう)(いん)に戻るわけにもいかず、そわそわなさっている。
すると二条の院から使者(ししゃ)が来て、
(むらさき)(うえ)がお亡くなりになりました」
とお伝えしたの。

驚きあわててお戻りになると、周辺の道路が大騒ぎになっている。
二条の院からは泣き叫ぶ声が聞こえる。
(われ)を忘れて源氏の君はご病室に()けこまれる。
「ここ数日は少し落ち着いておられたのですが、急にお亡くなりになりました」
と、なんとかひとりの女房(にょうぼう)が申し上げたけれど、どの女房たちも完全に混乱しているの。
病気回復のお祈りをしていた僧侶(そうりょ)たちは、一部を残して帰り支度(じたく)をはじめている。
<本当に死んだのだ>
これほど目の前が真っ暗になるご経験を源氏の君はなさったことがない。