三月の末に六条(ろくじょう)(いん)(まと)()て遊びが行われた。
弓の得意な貴族たちがたくさん集まっている。
衛門(えもん)(かみ)様はお気が進まないけれど、
(おんな)(さん)(みや)様のお部屋近くの桜を見れば、多少は心が(なぐさ)められるだろうか>
とお越しになった。

的当ての勝負がついても、どなたも帰りがたそうになさっている。
夕風が「もう春は終わりですよ」と言わんばかりにお庭の(かすみ)や桜を吹き荒らしていく。
それをお酒に()った目でうっとりと(なが)めていらっしゃるの。
源氏(げんじ)(きみ)余興(よきょう)を思いつかれた。
「今日の褒美(ほうび)にはここの女君(おんなぎみ)たちがそれぞれ工夫した品を用意しているが、それを現場の(うで)自慢(じまん)だけがかっさらっていったのではおもしろくない。上司たちにも花を持たせてやろう。腕前(うでまえ)はたたき上げたちに(かな)わないかもしれないが、矢を()る姿の上品さを競えばよい」

見物(けんぶつ)なさっていた大将(たいしょう)様や衛門の督様たちがお庭に下りていかれる。
衛門の督様はひどくぼんやりなさっているから、大将様は心配なさる。
<酔っているだけではないだろう。人が変わってしまったようだ。面倒なことが起きなければよいが>
姫宮(ひめみや)様のお姿を見てしまったせいだと、大将様はお気づきになっている。
おふたりは従兄弟(いとこ)同士で、昔から特別に仲がよいの。
年上の親友が物思いに(しず)んでいらっしゃるのを、大将様はお気の毒にお思いになる。