野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

(おんな)(さん)(みや)様が来てくださるとお聞きになった入道(にゅうどう)上皇(じょうこう)様は、
「それならば姫宮(ひめみや)(きん)が聞きたい。源氏(げんじ)(きみ)降嫁(こうか)して六年、さすがに琴くらいは上達したであろう」
とおっしゃる。
ご自分でもお教えになっていたけれど、十四、五歳で姫宮様はご降嫁なさったから、それからどうおなりになったかご心配なの。

<ときどきお教えしていたから上達はなさったけれど、まだ入道の上皇様にお聞かせできるほどの腕前(うでまえ)ではいらっしゃらない。このままたいして練習せずにお会いになったら、(はじ)をおかきになるだろう>
それでは姫宮様がお気の毒なので、熱心に教えておあげになる。
めずらしい曲を二、三曲、それから少し長めの曲を由緒(ゆいしょ)正しい技とともに伝授(でんじゅ)なさると、はじめはおぼつかなかった演奏も、しだいにとてもお上手になってきた。

「昼間は人の出入りが多いから、耳を音色に集中させにくい。難しい技は夜の静かなときにお教えしましょう」
(むらさき)(うえ)にお許しをもらって、それからは昼も夜も姫宮様のお部屋にいらっしゃる。