野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

入道(にゅうどう)上皇(じょうこう)様はいよいよ死が近づいている気がなさる。
出家(しゅっけ)のときに世間のことはすべて捨てたはずだけれど、(おんな)(さん)(みや)様のことだけは気がかりで、<成仏(じょうぶつ)(さまた)げになるのでは>とご心配なさっている。
「おおげさにならないように会いにきてくれませんか」
とそっとお願いなさると、源氏(げんじ)(きみ)は反省なさった。
「私の気が()かなかった。もっと早く姫宮(ひめみや)様にお見舞いをお(すす)めするべきだった。ご出家なさった上皇様に言いにくいことを言わせてしまい、申し訳がない」

ただのお見舞いではなく、せっかくならば何か工夫をしたいとお思いになる。
<入道の上皇様は来年は五十歳におなりだから、その祝賀(しゅくが)(かい)をしてさしあげよう>
上皇様のためのお着物や、余興(よきょう)(まい)の準備をおはじめになった。