野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

(おんな)(さん)(みや)様は、年月が()てば()つほど重く(あつか)われていかれる。
父君(ちちぎみ)である入道(にゅうどう)上皇(じょうこう)様、兄君(あにぎみ)である(みかど)、そして夫君(おっとぎみ)源氏(げんじ)(きみ)がついておられるのだもの。
それをご覧になっている(むらさき)(うえ)は、やはりご自分はもう出家(しゅっけ)した方がよいとお思いになるの。
<私は源氏の君のご愛情だけが頼りだ。今はまだ誰にも負けていないが、いつまでもこのままのご愛情ではないだろう。そうなる前に出家してしまいたい。しかし、女の自分が出家を願うのは、かわいげのないことだと源氏の君はお嫌いになるだろう>
素直で従順(じゅうじゅん)女君(おんなぎみ)でいることを捨てられないから、出家のお願いをはっきりとは言い出せずにいらっしゃる。

帝まで姫宮(ひめみや)様のご心配をなさるので、源氏の君は宮様のところにお泊まりになることが増えていった。
だんだん紫の上と同じくらいのお扱いになっていく。
<あちらは内親王(ないしんのう)様であられる上にご正妻(せいさい)なのだから、それも当然だ>
と思うけれど、お心のなかは(おだ)やかではいらっしゃらない。
気を(まぎ)らわせるために、明石(あかし)女御(にょうご)様がお生みになった幼い姫宮様をお引き取りになった。
そのお世話をなさっていれば、おひとりの夜もお心が(なぐさ)められるの。
どの宮様もそれぞれにおかわいらしいと、すっかり祖母君(そぼぎみ)のようでいらっしゃる。

夏の御殿(ごてん)花散里(はなちるさと)(きみ)はそれがうらやましい。
ご自分も孫君(まごぎみ)をお世話したいと大将(たいしょう)様にお願いなさる。
源氏の君のご子息(しそく)の大将様は早くに母君(ははぎみ)を亡くして、花散里の君が養母(ようぼ)におなりになったの。
だから、大将様のお子を孫のように思っていらっしゃる。
大将様は、ご正妻の雲居(くもい)(かり)ではなく、惟光(これみつ)の娘で典侍(ないしのすけ)をしている人が生んだ姫君(ひめぎみ)をお預けになった。
とてもかわいらしくて、まだ幼いけれど大人びているので、源氏の君もにこにこしてかわいがりなさる。

源氏の君のお子は、秘密のお子である新上皇様の他には、大将様と明石の女御様だけ。
でも孫君がたくさん増えたから、近ごろは幸せな祖父君(そふぎみ)として毎日を楽しんでおられる。
そうやって世代(せだい)交代が進んでいっているのだけれど、女三の宮様は二十歳を過ぎても少女のように幼いままでいらっしゃる。
明石の女御様は帝にお(まか)せして、源氏の君は女三の宮様をご自分の姫君のようにお育てなさっている。