十月のことなので住吉大社の紅葉が美しい。
神様のために源氏の君は音楽を演奏させなさる。
波風の音と響きあって、笛の音もいつもとは違った感じに聞こえる。
場所がよいとぐっと魅力が増すものよね。
若い貴族が舞う姿も美しくて、源氏の君はご自分の青春時代をお懐かしみになる。
須磨や明石で謹慎生活を送ったことが昨日のことのように思い出されるけれど、そのころのことを何もかも話し合える人はいらっしゃらない。
<引退した太政大臣がいてくれたら>
と恋しく思われる。
尼君宛てにこっそりとお手紙をお書きになった。
「私が苦しかった時代を知る人も少なくなりました。住吉の神様にどれほど救っていただいたかは、もう尼君しかご存じないでしょう」
お手紙を読んで尼君は泣く。
今は夢のようなお行列のなかにいるけれど、二十年近く前、都にお帰りになる源氏の君を絶望の気持ちでお見送りしたことを思い出すの。
女御様がお生まれになって、そこからまた運勢が上向いて今につづいている。
亡くなった夫君のことも思い出すけれど、お返事に不吉なことは書いてはいけない。
「私がこうして幸せな境遇におりますのも、住吉の神様のおかげでございます。恐れながらこれほどお救いいただけるとは思っておりませんでした」
思ったままを書いてお送りする。
「女御様のお幸せを拝見すればするほど、昔の苦労や悲しみも思い出してしまうけれど」
尼君はそっとつぶやいた。
幸せになったからといって過去を忘れられるものではないのよね。
神様にお礼の宝物をさしあげてお帰りになる。
荷物が少なくなったので、身軽にあちこち見物しながら都に向かわれる。
世間では「明石の尼君」という言葉が流行った。
尼君のように幸運を手に入れたいときに使うの。
たとえば元太政大臣様のお屋敷に今もいる近江の君が、双六のさいころを振るときに必死に唱えている。
神様のために源氏の君は音楽を演奏させなさる。
波風の音と響きあって、笛の音もいつもとは違った感じに聞こえる。
場所がよいとぐっと魅力が増すものよね。
若い貴族が舞う姿も美しくて、源氏の君はご自分の青春時代をお懐かしみになる。
須磨や明石で謹慎生活を送ったことが昨日のことのように思い出されるけれど、そのころのことを何もかも話し合える人はいらっしゃらない。
<引退した太政大臣がいてくれたら>
と恋しく思われる。
尼君宛てにこっそりとお手紙をお書きになった。
「私が苦しかった時代を知る人も少なくなりました。住吉の神様にどれほど救っていただいたかは、もう尼君しかご存じないでしょう」
お手紙を読んで尼君は泣く。
今は夢のようなお行列のなかにいるけれど、二十年近く前、都にお帰りになる源氏の君を絶望の気持ちでお見送りしたことを思い出すの。
女御様がお生まれになって、そこからまた運勢が上向いて今につづいている。
亡くなった夫君のことも思い出すけれど、お返事に不吉なことは書いてはいけない。
「私がこうして幸せな境遇におりますのも、住吉の神様のおかげでございます。恐れながらこれほどお救いいただけるとは思っておりませんでした」
思ったままを書いてお送りする。
「女御様のお幸せを拝見すればするほど、昔の苦労や悲しみも思い出してしまうけれど」
尼君はそっとつぶやいた。
幸せになったからといって過去を忘れられるものではないのよね。
神様にお礼の宝物をさしあげてお帰りになる。
荷物が少なくなったので、身軽にあちこち見物しながら都に向かわれる。
世間では「明石の尼君」という言葉が流行った。
尼君のように幸運を手に入れたいときに使うの。
たとえば元太政大臣様のお屋敷に今もいる近江の君が、双六のさいころを振るときに必死に唱えている。



