野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

明石(あかし)入道(にゅうどう)のお願い事はあまりに(だい)それているから、そのお(れい)(まい)りとは言わず、ふつうの源氏(げんじ)(きみ)のご参詣(さんけい)ということで出発なさる。
(むらさき)(うえ)もご一緒にお行きになる。
民衆(みんしゅう)の負担にならないよう質素(しっそ)を心がけなさるけれど、上皇(じょうこう)待遇(たいぐう)の源氏の君のお出かけともなると、やはり盛大になったわ。

明石の女御(にょうご)様と紫の上は同じ乗り物にお乗りになる。
そのあとの乗り物に、明石の君と尼君(あまぎみ)、それからこっそりと女御様の乳母(めのと)が乗った。
この乳母は源氏の君が都から明石へ派遣(はけん)なさった人で、女御様がお生まれになったときからお仕えしている。

「尼君もお連れしよう」と源氏の君がおっしゃったとき、明石の君は遠慮したのだけれど、
「あとどれだけ生きられるかわからないのですから、ぜひお(とも)させていただきたい」
と本人が言うので一緒に行くことになったの。
まさかこれほど幸せな老後があるなんて、本当に運のいい人よね。