(おんな)(さん)(みや)様のことは、(みかど)兄君(あにぎみ)として気にかけていらっしゃる。
世間からも尊重(そんちょう)されておられるものの、源氏(げんじ)(きみ)のご愛情はやはり(むらさき)(うえ)ほどではない。
源氏の君と紫の上はあいかわらず仲良く過ごされている。
でも実は、近ごろ紫の上は出家(しゅっけ)をお考えになっているの。

「もうそろそろ出家してのんびりと仏教(ぶっきょう)修行(しゅぎょう)をしたいと思うのです。この世の幸せはすべて見せていただいたような気がしますから、どうかお許しくださいませ」
たびたび源氏の君にお願いなさる。
「そんなことはいけない。つらいではないか。私の方こそ昔から出家したいと思っているが、そうしたらあなたはどのような身の上になるだろうかと心配で出家できずにいる。せめて私が出家してからになさい」
源氏の君はけっしてお許しにならない。

明石(あかし)女御(にょうご)様は紫の上を実の母君(ははぎみ)のようにお(あつか)いなさる。
生母(せいぼ)の明石の君も、表向きの後見(こうけん)は紫の上にお(ゆず)りして、目立たないところで地道に女御様のお世話をしている。
母君がおふたりいらっしゃるようで、立派で頼もしい協力体制なの。
しょっちゅう嬉し泣きしている尼君(あまぎみ)は、理想の長生きだと世間から思われている。