女三の宮様には何人かの乳母がいらっしゃるけれど、一番格上の乳母の兄が、源氏の君に親しくお仕えしている。
姫宮様のことも気にかけている人だから、何かと乳母の相談相手になっているの。
「上皇様は姫宮様を源氏の君とご結婚させられないかとお考えなのです。兄君からさりげなく源氏の君にお伝えくださいませんか。内親王様は生涯独身を貫かれるのが原則ですけれど、やはり今の時代は、お世話して後見してくださる夫君をお持ちになった方が頼もしいですもの。
上皇様がご出家なさったら、姫宮様は頼りにできる方がいらっしゃらなくなります。私たちではお仕えするにも限界がありますし、私はそんな不届きなことはいたしませんけれど、他の女房がろくでもない男を手引きしてしまう可能性だってあります。それが噂になったらとんでもないことです。
とにかく上皇様がご出家なさる前に夫君をお決めくだされば、私たちもお仕えしやすくなるのです。尊い内親王様と申し上げても、結局女は運命に翻弄されるもので、あれこれ心配は尽きません。四人の姫宮様たちのなかで特別にかわいがられておいでの方ですから、他の宮様からの嫉妬も心配です。そこまで心配しなくてもと兄君は思われるかもしれませんけれど、私は姫宮様にほんの少しも傷ついていただきたくないのです」
兄は悩みながら言う。
「どうだろうな。たしかに源氏の君は女君を長く大切になさる方で、ご愛情の深さにかかわらず六条の院と二条の東の院にお集めになっているけれど、やはり紫の上が別格の女君でいらっしゃる。もし姫宮様が六条の院にお入りになったら、さすがに紫の上は遠慮なさるだろうが、源氏の君のご愛情はどうだろうか。
しかし、ひとつ期待できる点があるとすれば、源氏の君は今いらっしゃる女君たちに完全な満足はしておられないということだ。内々にそのようなことをおっしゃっているらしい。私などから見ても、上皇様と同格におなりになった源氏の君に釣り合うご身分の方はおられない。女君たちはせいぜい上級貴族のご出身で、紫の上は式部卿の宮様の姫君だがご正妻のお子ではいらっしゃらない。亡き常陸の宮様の姫君はご正妻のお子で、表面上は大切にしておられるけれど、ご愛情は薄いようでいらっしゃる。
そんなふうだから、本当にこちらの姫宮様とご結婚なさったら、さぞかしお似合いのご夫婦におなりだろう」
乳母は兄から聞いた話を上皇様にお伝えする。
「それから兄が申しますには、『源氏の君はきっとお引き受けなさるのではないか。高貴なご正妻がほしいという長年のご希望が叶ったとお思いになるだろう』とのことで、『上皇様のお許しが本当にあるのなら、私からお伝えいたしましょう』とも申しておりますが、いかがいたしましょうか。
源氏の君の女君たちへの広いご愛情はご立派ですけれど、その女君のひとりになると、ふつうの身分の女性でも不快なことはありますでしょう。ましてこちらは尊い姫宮様でいらっしゃいますから、失礼だとお思いになることも起きるかもしれません。姫宮様の後見をさせていただきたいという方はたくさんいらっしゃいますから、どうかよくお考えになってお決めくださいませ。
内親王様と申しましても、近ごろはご自分の意思をお持ちになって、柔軟にご結婚生活を送っておいでの方も多うございます。しかしこちらの姫宮様は、ご意思というものがどうもはっきりしませんから、やはりご結婚相手はしっかりと姫宮様を導いてくださる方でなければと存じます。夫君がだいたいのことをきちんとお決めくださいましたら、私どもも力を尽くしてお仕えすることができましょう」
乳母は女三の宮様の頼りないご性格をよく知っているから、
<上皇様の代わりに姫宮様を後見する夫君が必要だ>
と切実に思っているの。
姫宮様のことも気にかけている人だから、何かと乳母の相談相手になっているの。
「上皇様は姫宮様を源氏の君とご結婚させられないかとお考えなのです。兄君からさりげなく源氏の君にお伝えくださいませんか。内親王様は生涯独身を貫かれるのが原則ですけれど、やはり今の時代は、お世話して後見してくださる夫君をお持ちになった方が頼もしいですもの。
上皇様がご出家なさったら、姫宮様は頼りにできる方がいらっしゃらなくなります。私たちではお仕えするにも限界がありますし、私はそんな不届きなことはいたしませんけれど、他の女房がろくでもない男を手引きしてしまう可能性だってあります。それが噂になったらとんでもないことです。
とにかく上皇様がご出家なさる前に夫君をお決めくだされば、私たちもお仕えしやすくなるのです。尊い内親王様と申し上げても、結局女は運命に翻弄されるもので、あれこれ心配は尽きません。四人の姫宮様たちのなかで特別にかわいがられておいでの方ですから、他の宮様からの嫉妬も心配です。そこまで心配しなくてもと兄君は思われるかもしれませんけれど、私は姫宮様にほんの少しも傷ついていただきたくないのです」
兄は悩みながら言う。
「どうだろうな。たしかに源氏の君は女君を長く大切になさる方で、ご愛情の深さにかかわらず六条の院と二条の東の院にお集めになっているけれど、やはり紫の上が別格の女君でいらっしゃる。もし姫宮様が六条の院にお入りになったら、さすがに紫の上は遠慮なさるだろうが、源氏の君のご愛情はどうだろうか。
しかし、ひとつ期待できる点があるとすれば、源氏の君は今いらっしゃる女君たちに完全な満足はしておられないということだ。内々にそのようなことをおっしゃっているらしい。私などから見ても、上皇様と同格におなりになった源氏の君に釣り合うご身分の方はおられない。女君たちはせいぜい上級貴族のご出身で、紫の上は式部卿の宮様の姫君だがご正妻のお子ではいらっしゃらない。亡き常陸の宮様の姫君はご正妻のお子で、表面上は大切にしておられるけれど、ご愛情は薄いようでいらっしゃる。
そんなふうだから、本当にこちらの姫宮様とご結婚なさったら、さぞかしお似合いのご夫婦におなりだろう」
乳母は兄から聞いた話を上皇様にお伝えする。
「それから兄が申しますには、『源氏の君はきっとお引き受けなさるのではないか。高貴なご正妻がほしいという長年のご希望が叶ったとお思いになるだろう』とのことで、『上皇様のお許しが本当にあるのなら、私からお伝えいたしましょう』とも申しておりますが、いかがいたしましょうか。
源氏の君の女君たちへの広いご愛情はご立派ですけれど、その女君のひとりになると、ふつうの身分の女性でも不快なことはありますでしょう。ましてこちらは尊い姫宮様でいらっしゃいますから、失礼だとお思いになることも起きるかもしれません。姫宮様の後見をさせていただきたいという方はたくさんいらっしゃいますから、どうかよくお考えになってお決めくださいませ。
内親王様と申しましても、近ごろはご自分の意思をお持ちになって、柔軟にご結婚生活を送っておいでの方も多うございます。しかしこちらの姫宮様は、ご意思というものがどうもはっきりしませんから、やはりご結婚相手はしっかりと姫宮様を導いてくださる方でなければと存じます。夫君がだいたいのことをきちんとお決めくださいましたら、私どもも力を尽くしてお仕えすることができましょう」
乳母は女三の宮様の頼りないご性格をよく知っているから、
<上皇様の代わりに姫宮様を後見する夫君が必要だ>
と切実に思っているの。



