野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上

女房(にょうぼう)がお返事申し上げる。
中納言(ちゅうなごん)様は昔から真面目な方で、初恋をずっと大切にして他の女性などには目もくれなかったそうでございます。そのお相手とご結婚なさったからには、姫宮(ひめみや)様にご興味はお持ちになりませんでしょう。それよりもお父君(ちちぎみ)源氏(げんじ)(きみ)の方が、いまだに女性にご関心がおありとか。とくに高貴(こうき)な女性をお求めになっていて、斎院(さいいん)をなさった亡き式部卿(しきぶきょう)(みや)様の姫君(ひめぎみ)のことをお忘れになれないようでございます」
朝顔(あさがお)の姫君に求婚なさっていた(うわさ)は、こんなところまで広まっている。

「いつまでも女性に関心があるのは心配でもあるが」
苦笑いなさりながらも、
<女性関係の苦労はあるだろうが、親代わりと割り切って頼んでしまおうか>
ともお思いになる。
「年ごろの娘がいる人なら誰でも、源氏の君に差し上げたいと願うだろうね。娘本人だって、命などあっという間のものだと思えば、美しい夫を見て満足して暮らしたいだろうよ。私が女に生まれたとしてもきっとそう思うはずだから、若い娘がふらふらとあの人に()かれるのも仕方がない」
朧月夜(おぼろづきよ)尚侍(ないしのかみ)様のことを思い出しておっしゃる。