野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上

女房(にょうぼう)たちが集まって(のぞ)いている。
「なんとお美しくご立派でいらっしゃること」
と小声ではしゃいでいると、(ろう)女房が出てきて言う。
「そうはいっても、源氏(げんじ)(きみ)があのくらいのお年でいらっしゃったころには(かな)いませんよ。目がくらむほどお美しかったのですから」

その声が上皇(じょうこう)様のお耳に届いていたようで、中納言(ちゅうなごん)様がお帰りになったあとで女房たちにおっしゃる。
「本当に源氏の君は特別な人だ。お若かったころはもちろん、今はさらにお美しくなられて、光るというのはこういうことかと思わされる。真面目に政治をなさっているときは端正(たんせい)だけれど、うちとけて冗談を言っているときには愛嬌(あいきょう)があって親しみやすい。めったにいない人だね。それだけ前世(ぜんせ)(おこな)いがよかったのだろう。

宮中(きゅうちゅう)で、亡き上皇様にかわいがられてお育ちになったのに、調子に乗らずに謙遜(けんそん)して、十代のうちは上級貴族にならなかった。たしか二十一歳でやっとお加わりになっただろうか。中納言は父親よりも早く出世している。世間からの信頼がどんどん増していく家系(かけい)なのだろう。たしかに学問や心構えは父親に負けないほどしっかりしているから、成長するにつれて世間の評判(ひょうばん)が高くなるのももっともだ」