野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上

法要(ほうよう)が無事に終わったあとの宴会(えんかい)二条(にじょう)(いん)で行うことになさった。
六条(ろくじょう)の院にはたくさんの女君(おんなぎみ)が集められて住んでいらっしゃるけれど、二条の院は源氏(げんじ)(きみ)とおふたりだけで暮らした思い出のお屋敷なの。
ご準備はだいたい(むらさき)(うえ)がなさって、一部は女君たちが進んでお手伝いなさった。
会場は格式高く飾りつけられた。
ご身分の高いお客様がたくさん参列なさる。

中納言(ちゅうなごん)様と衛門(えもん)(かみ)様が(まい)披露(ひろう)なさった。
源氏の君と太政(だいじょう)大臣(だいじん)様のご子息(しそく)よ。
父君たちは、二十年以上も昔のことだけれど、青海波(せいがいは)をみごとに()われたの。
お客様たちはそのことを思い出してため息をおつきになる。
<二十年前のおふたりもすばらしかったが、ご子息たちが立派に(あと)()いでいらっしゃる。世間からの期待も、ご器量(きりょう)やご態度も、父君(ちちぎみ)たちのお若いころに負けておられない。お役職などはむしろ、当時の父君たちよりも上のはずだ。それぞれの世代で、競いあって輝きあうご家系(かけい)同士なのだろう>
源氏の君も青春時代を思い出して涙ぐまれる。

つづいて音楽会がはじまった。
(げん)楽器は東宮(とうぐう)様が提供(ていきょう)なさった。
出家(しゅっけ)なさった上皇(じょうこう)様から(ゆず)られた琵琶(びわ)(きん)(みかど)から頂戴(ちょうだい)なさった(そう)などで、源氏の君にとってはかつて内裏(だいり)で聞いた(なつ)かしい音色(ねいろ)なの。
そのころの内裏といえば、真っ先に思い出されるのは入道(にゅうどう)(みや)様のこと。
三十七歳で亡くなってしまわれたけれど、
<せめてあと少し長生きしてくださっていたら、私が四十歳の祝賀会をしてさしあげたかった。今となっては誠意(せいい)をお見せする方法さえない>
と残念にお思いになる。