野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上

(むらさき)(うえ)はまず女御(にょうご)様とご対面なさる。
女御様は実の母君(ははぎみ)である明石(あかし)(きみ)よりも、養母(ようぼ)の紫の上の方に(なつ)いて信頼なさっている。
美しく大人らしくなられたお姿を、紫の上は<あぁ、かわいらしい>と拝見なさる。
うちとけてしばらくお話しなさってから、いよいよ(さかい)の戸を開けて姫宮(ひめみや)様のところへお上がりになる。

姫宮様はただひたすら幼くいらっしゃるので、紫の上はほっとなさった。
母親のように優しく話しかけて、(みや)様とご自分が従姉妹(いとこ)同士であることをお気づかせなさる。
それから宮様の乳母(めのと)を呼んで、きちんとご挨拶(あいさつ)なさった。
「恐れ多くもご親戚ということになりますけれど、これまでご挨拶の機会がなく失礼いたしました。これからは親しい者とお考えいただいて、私のおります離れにもぜひお越しくださいませ。(いた)らぬ点がございましたら、遠慮なくお教えいただければうれしく存じます」

宮様はぼんやりとお聞きになっている。
少しのお返事も難しそうなので、乳母が申し上げる。
(はは)女御(にょうご)様はすでにお亡くなりで、父君(ちちぎみ)であられる上皇(じょうこう)様はご出家(しゅっけ)なさいましたから、本当にお心細い宮様なのでございます。そのようにご親切なことをおっしゃっていただき、ありがたいことと存じます。上皇様も、源氏(げんじ)(きみ)に父親代わり、あなた様に母親代わりをしていただきたいとお思いのようでいらっしゃいました」

「上皇様からそのような恐れ多いお手紙を頂戴(ちょうだい)いたしましたから、私もできるかぎりお役に立ちたいと願っておりましたが、何をさせていただきますにも(ちから)不足(ぶそく)でございまして」
落ち着いた大人らしい態度でお答えになってから、姫宮様にほほえんで、絵巻(えまき)のことや(ひな)遊びがいつまでもやめられなかったことなどをお話しになる。
まるで同世代の少女のような紫の上の(くち)ぶりに、
<源氏の君がおっしゃったとおりの人だ。仲良くなれそうな気がする>
と、姫宮様は他愛(たあい)もなくうちとけなさる。