紫の上は女御様のところへご挨拶に上がられる前に、源氏の君にご相談なさった。
「この機会に、姫宮様にもご挨拶させていただけませんでしょうか。女御様と同じ建物でお暮らしですから、境の戸を開けて、西側の宮様のお部屋に上がらせていただけたらと存じます。一度ご挨拶申し上げたいと以前から思っておりましたけれど、ついでもないのに上がるのは遠慮されまして、こういう機会に一言でもお話しできましたら、これからお互いに安心して暮らしていけると思うのです」
「それはよいことを思いつきましたね。子どものような方ですから、いろいろと教えてさしあげてください」
源氏の君はうれしそうにお許しになった。
紫の上はお髪まで洗って念入りに準備をなさる。
姫宮様や女御様のためというよりも、明石の君にお会いするから緊張しておられるのよ。
それだけ明石の君を認めておられるということだけれど、美しく身支度なさった紫の上は、やはりどなたにも負けないほどご立派でいらっしゃる。
源氏の君は先に姫宮様のところへ行かれて、紫の上が訪問する予定だとお知らせなさる。
「離れに住んでおります人が、夕方、女御様にお会いするためにこちらの建物に参ります。そのついでに宮様ともお近づきになりたいと申しておりますから、ぜひお会いになってお話しください。人柄などはとてもよい人ですよ。まだ若々しいところの残っている人ですから、お遊び相手にもよいでしょう」
「初めての人は恥ずかしい。何をお話ししたらよいかしら」
姫宮様がおっとりとおっしゃるので、
「そのときにお思いになったことをお返事なさったらよろしいのですよ。仲良くしておあげなさい」
とお教えになる。
<姫宮様と紫の上には平穏な関係を築いてほしい。あまりに幼いご様子を紫の上に見られるのは気まずいけれど、せっかく仲良くする気でいてくれるのだから止めるわけにもいかない>
源氏の君はなんとか無事にご対面がすむことを祈っておられる。
一方、紫の上は、ご挨拶の準備を女房たちにさせながら物思いにふけっていらっしゃる。
<私の身分がそれほど劣っているとは思えない。ご正妻の子ではないけれど、式部卿の宮様の娘なのだ。ただ、母君や祖母君を幼いときに亡くして、頼る人がいないところを源氏の君に救っていただいた。それがいまだに私の立場を不利にしている>
お習字の練習で古い和歌をいくつかお書きになったけれど、男女関係に悩む和歌ばかりを思い出して書いていることにはっとなさった。
<私は悩んでいるというのか。この私が>
これまでなかったご感情にとまどわれるの。
源氏の君は姫宮様と女御様をそれぞれお美しいとご覧になって、紫の上のところに戻られると、
<やはりこの人が一番だ>
とお思いになる。
これ以上ないほど気高く成熟なさって、華やかで現代的でいらっしゃる。
いつでも今が女盛りのように思われる。
去年より今年、昨日より今日の方がお美しい。
お習字の紙を源氏の君がお見つけになった。
紫の上のご筆跡は完璧な達筆というのではないけれど、おっとりとしたかわいらしさがおありになる。
「私は飽きられてしまったのかしら」
とあるところへ、
「私の気持ちは変わりませんよ。気にしすぎです」
と源氏の君は書き加えながら、つらいお気持ちを隠そうとなさるのがお気の毒だとお思いになる。
「この機会に、姫宮様にもご挨拶させていただけませんでしょうか。女御様と同じ建物でお暮らしですから、境の戸を開けて、西側の宮様のお部屋に上がらせていただけたらと存じます。一度ご挨拶申し上げたいと以前から思っておりましたけれど、ついでもないのに上がるのは遠慮されまして、こういう機会に一言でもお話しできましたら、これからお互いに安心して暮らしていけると思うのです」
「それはよいことを思いつきましたね。子どものような方ですから、いろいろと教えてさしあげてください」
源氏の君はうれしそうにお許しになった。
紫の上はお髪まで洗って念入りに準備をなさる。
姫宮様や女御様のためというよりも、明石の君にお会いするから緊張しておられるのよ。
それだけ明石の君を認めておられるということだけれど、美しく身支度なさった紫の上は、やはりどなたにも負けないほどご立派でいらっしゃる。
源氏の君は先に姫宮様のところへ行かれて、紫の上が訪問する予定だとお知らせなさる。
「離れに住んでおります人が、夕方、女御様にお会いするためにこちらの建物に参ります。そのついでに宮様ともお近づきになりたいと申しておりますから、ぜひお会いになってお話しください。人柄などはとてもよい人ですよ。まだ若々しいところの残っている人ですから、お遊び相手にもよいでしょう」
「初めての人は恥ずかしい。何をお話ししたらよいかしら」
姫宮様がおっとりとおっしゃるので、
「そのときにお思いになったことをお返事なさったらよろしいのですよ。仲良くしておあげなさい」
とお教えになる。
<姫宮様と紫の上には平穏な関係を築いてほしい。あまりに幼いご様子を紫の上に見られるのは気まずいけれど、せっかく仲良くする気でいてくれるのだから止めるわけにもいかない>
源氏の君はなんとか無事にご対面がすむことを祈っておられる。
一方、紫の上は、ご挨拶の準備を女房たちにさせながら物思いにふけっていらっしゃる。
<私の身分がそれほど劣っているとは思えない。ご正妻の子ではないけれど、式部卿の宮様の娘なのだ。ただ、母君や祖母君を幼いときに亡くして、頼る人がいないところを源氏の君に救っていただいた。それがいまだに私の立場を不利にしている>
お習字の練習で古い和歌をいくつかお書きになったけれど、男女関係に悩む和歌ばかりを思い出して書いていることにはっとなさった。
<私は悩んでいるというのか。この私が>
これまでなかったご感情にとまどわれるの。
源氏の君は姫宮様と女御様をそれぞれお美しいとご覧になって、紫の上のところに戻られると、
<やはりこの人が一番だ>
とお思いになる。
これ以上ないほど気高く成熟なさって、華やかで現代的でいらっしゃる。
いつでも今が女盛りのように思われる。
去年より今年、昨日より今日の方がお美しい。
お習字の紙を源氏の君がお見つけになった。
紫の上のご筆跡は完璧な達筆というのではないけれど、おっとりとしたかわいらしさがおありになる。
「私は飽きられてしまったのかしら」
とあるところへ、
「私の気持ちは変わりませんよ。気にしすぎです」
と源氏の君は書き加えながら、つらいお気持ちを隠そうとなさるのがお気の毒だとお思いになる。



