寝乱れた源氏の君がこっそりとお帰りになったのを紫の上は迎えて、
<やはり上皇様の尚侍様のところへ行かれていたのだ>
とお思いになる。
それでもはっきりと問いただすことはなさらない。
<気づいているだろうに、何も言われないのは嫉妬されるよりも心苦しい。これほど愛している人をどうして放って出かけてしまったのか>
源氏の君は後悔なさって、いつも以上に言葉を尽くしてお慰めになる。
朧月夜の尚侍様のことはお話しになるべきではないけれど、紫の上もある程度はご存じのご関係だから、肝心なところは隠して言い訳をなさる。
「あなたのご想像どおり、実は尚侍様のところへ伺っていたのです。もちろんついたて越しでしかお会いいただけませんでしたし、それもほんの短い時間でしたから、物足りないような気がします。人目を避けてもう一度伺おうと思う」
紫の上は静かにお笑いになる。
「まぁ、ずいぶんと若返りなさったのですね。新しいご正妻をお迎えになっただけでなく、昔の恋人まで取り戻されては、私の居場所はなくなってしまいそうです」
涙ぐまれるお目元がいじらしい。
「そんなふうに不安そうになさっては心苦しい。いっそもっと分かりやすく憎んでください。あなたと私の仲ではありませんか」
あれこれとご機嫌をお取りになっているうちに、どうやら昨夜のことはすべて話してしまわれたみたい。
その日はずっと紫の上とご一緒にいらっしゃって、姫宮様のところへは行かれない。
宮様はあいかわらずぼんやりなさって何ともお思いにならないのだけれど、乳母たちは心配そうにしている。
宮様ご本人が不満をおっしゃるなら源氏の君も気を遣われるけれど、そういうことはなさらない幼い方だから、源氏の君はかわいらしいお人形くらいに思っていらっしゃる。
<やはり上皇様の尚侍様のところへ行かれていたのだ>
とお思いになる。
それでもはっきりと問いただすことはなさらない。
<気づいているだろうに、何も言われないのは嫉妬されるよりも心苦しい。これほど愛している人をどうして放って出かけてしまったのか>
源氏の君は後悔なさって、いつも以上に言葉を尽くしてお慰めになる。
朧月夜の尚侍様のことはお話しになるべきではないけれど、紫の上もある程度はご存じのご関係だから、肝心なところは隠して言い訳をなさる。
「あなたのご想像どおり、実は尚侍様のところへ伺っていたのです。もちろんついたて越しでしかお会いいただけませんでしたし、それもほんの短い時間でしたから、物足りないような気がします。人目を避けてもう一度伺おうと思う」
紫の上は静かにお笑いになる。
「まぁ、ずいぶんと若返りなさったのですね。新しいご正妻をお迎えになっただけでなく、昔の恋人まで取り戻されては、私の居場所はなくなってしまいそうです」
涙ぐまれるお目元がいじらしい。
「そんなふうに不安そうになさっては心苦しい。いっそもっと分かりやすく憎んでください。あなたと私の仲ではありませんか」
あれこれとご機嫌をお取りになっているうちに、どうやら昨夜のことはすべて話してしまわれたみたい。
その日はずっと紫の上とご一緒にいらっしゃって、姫宮様のところへは行かれない。
宮様はあいかわらずぼんやりなさって何ともお思いにならないのだけれど、乳母たちは心配そうにしている。
宮様ご本人が不満をおっしゃるなら源氏の君も気を遣われるけれど、そういうことはなさらない幼い方だから、源氏の君はかわいらしいお人形くらいに思っていらっしゃる。



