野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上

東宮(とうぐう)様が母君(ははぎみ)女御(にょうご)様とお見舞いにいらっしゃった。
ご病気はもちろん、ご出家(しゅっけ)の準備もなさっているとお聞きになったからご心配なの。
こちらの女御様は大将(たいしょう)様の妹君(いもうとぎみ)
そう、玉葛(たまかずら)尚侍(ないしのかみ)様と無理やりご結婚なさった大将様よ。
男性としてはともかく政治家としての評価は高い方だから、東宮様の立派な後見(こうけん)役として上皇(じょうこう)様も安心なさっている。

上皇様は東宮様に(みかど)におなりになったときのお心構えをお話しになる。
それから姫宮(ひめみや)様たちのことをお願いなさった。
「この世に思い残したことはないけれど、四人の姫宮の将来だけが心配です。出家の(さまた)げになるような気さえする。女の子が生きていくのは難しいものですからね。しかも内親王(ないしんのう)となれば、軽率(けいそつ)な振舞いをすればすぐに世間から非難(ひなん)される。
あなたが帝におなりになったら、どうか姫宮たちを気にかけて世話してやってください。しっかりとした後見役がいるならばそちらに(まか)せてもよいが、(おんな)(さん)(みや)はまだ幼く、私だけを頼りにして生きてきた人なのです。私が出家したら、世の中をどう(ただよ)っていくのか不安で悲しい」
涙をぬぐいながらお話しになる。

女御様にもお願いなさる。
でも、かつて後宮(こうきゅう)で競い合っていた方がお生みになったお子を、どれほど大切にお世話なさるかしら。
意地悪まではなさらないでしょうけれど、真剣に後見してくださることも期待できないわよね。