野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上

二月、上皇(じょうこう)様の姫宮(ひめみや)様が六条(ろくじょう)(いん)にお移りになった。
姫宮様のお部屋はもちろん、女房(にょうぼう)たちの部屋まで美しく準備されている。
源氏(げんじ)(きみ)上皇並()みのご待遇(たいぐう)だから、入内(じゅだい)と同様の儀式(ぎしき)で姫宮様はお入りになる。
乗り物をお寄せになったところに源氏の君はいらっしゃって、ご自分で姫宮様をお()ろしなさった。
これは入内のときとは違う作法で、あくまで臣下(しんか)として姫宮様をお迎えになったの。

源氏の君と上皇様が、立派で豪華なご結婚の儀式を行われる。
(むらさき)(うえ)はこれまで春の御殿(ごてん)のなかの一番大きな建物にお住まいだったけれど、そちらは姫宮様にお(ゆず)り申し上げて、東の離れにお移りになった。
姫宮様が源氏の君のご正妻(せいさい)として世間から認められ、もてはやされておられるのを拝見なさると、平気ではいらっしゃれない。

もちろん源氏の君は紫の上を見捨てるおつもりなどない。
ただ、紫の上は今まで特別に愛されていらっしゃったから、お若く(とうと)いご身分の宮様がお越しになったことで、ご自分のお立場の不安定さを思い知らされた気がなさるの。
それでも宮様をお迎えするご準備から源氏の君にご協力なさっていたし、源氏の君も紫の上に感謝なさっていた。

宮様は十四、五歳におなりだけれど、まだ小柄(こがら)で、ひたすら幼いご様子でいらっしゃる。
源氏の君が紫の上をお引き取りになったとき、紫の上は十歳くらいだったけれど大人顔負けに話し相手をなさった。
それと比べると宮様のご様子はまるで幼児のようなの。
<これはこれでよいだろう。(にく)たらしく威張(いば)るような振舞いはなさらないだろうから>
源氏の君は長所としてとらえようとなさるけれど、あまりにもつまらないお相手だともご覧になる。