翌日も雪が降った。
もの寂しい雰囲気のなか、源氏の君は紫の上に打ち明けなさる。
「上皇様がいよいよであられるようですから、お見舞いに上がったところ、お気の毒なことを仰せになりましてね。女三の宮様を見捨てていかれることが気がかりで、私に結婚をお頼みになったのです。あまりにお気の毒でお断り申し上げることができませんでした。これから世間がいろいろと言うだろうから嫌になってしまう。
もうこの年ですから、本当は新しい結婚など気が進まなかったのです。人づてにご依頼があったときには知らぬふりもできたけれど、昨日のご対面の折にお気持ちを洗いざらいおっしゃったものだから、さすがにきっぱりお断りなどできなかった。
そういうわけで、上皇様が山寺にお移りになるころ、姫宮様がこちらにお越しになります。しかし私の愛情をお疑いになってはいけませんよ。内親王様のご降嫁という華やかなことがあっても、私のあなたへの愛情は何も変わりません。私を信じていてください。これだけ私があなたを愛しているのだから、正直なところこの結婚は姫宮様にとってお気の毒です。しかし尊い方ですからね、丁寧にお世話してさしあげなくては。あなたも姫宮様も穏やかにお過ごしくださるとありがたい」
紫の上はこれまでちょっとした浮気でも許さないという方だったから、源氏の君は内心びくびくなさっていたのだけれど、意外にも平気そうにお返事なさる。
「お気の毒なご降嫁でございますね。私の方がお恨み申し上げるなどありえません。姫宮様が目障りな者とお思いにならなければ、私はこれまでどおりこちらに住まわせていただきます。姫宮様の母女御様は私の父宮の妹宮でいらっしゃいますから、恐れ多うございますけれど私は姫宮様の従姉ですもの。そのご縁で多少はお認めくださいましょう」
あっさりと謙遜なさるから、源氏の君は驚いてしまわれる。
「そう物分かりがよいとかえって心配だけれど。本当にそう思って穏やかに過ごしてくれたら、私はますますあなたが愛しくなるだろう。悪口に耳を貸してはいけませんよ。世間というものは、根拠もないのに夫婦仲のことを勝手に噂しますからね。何も問題のなかった夫婦が、そのせいでぎくしゃくすることだってある。あなたは心を落ち着かせて、私の誠意を見ていらっしゃい。ただの想像でつまらない嫉妬などをしてはいけません」
これまで源氏の君のご正妻と世間から思われていた紫の上だけれど、幼いころの同棲から始まったなんとなくのご結婚なの。
内親王様がご降嫁なされば、そちらが正式にご正妻ということになる。
この微妙なお立場の変化を穏やかに乗り越えられるように、源氏の君は心構えをお教えになった。
もの寂しい雰囲気のなか、源氏の君は紫の上に打ち明けなさる。
「上皇様がいよいよであられるようですから、お見舞いに上がったところ、お気の毒なことを仰せになりましてね。女三の宮様を見捨てていかれることが気がかりで、私に結婚をお頼みになったのです。あまりにお気の毒でお断り申し上げることができませんでした。これから世間がいろいろと言うだろうから嫌になってしまう。
もうこの年ですから、本当は新しい結婚など気が進まなかったのです。人づてにご依頼があったときには知らぬふりもできたけれど、昨日のご対面の折にお気持ちを洗いざらいおっしゃったものだから、さすがにきっぱりお断りなどできなかった。
そういうわけで、上皇様が山寺にお移りになるころ、姫宮様がこちらにお越しになります。しかし私の愛情をお疑いになってはいけませんよ。内親王様のご降嫁という華やかなことがあっても、私のあなたへの愛情は何も変わりません。私を信じていてください。これだけ私があなたを愛しているのだから、正直なところこの結婚は姫宮様にとってお気の毒です。しかし尊い方ですからね、丁寧にお世話してさしあげなくては。あなたも姫宮様も穏やかにお過ごしくださるとありがたい」
紫の上はこれまでちょっとした浮気でも許さないという方だったから、源氏の君は内心びくびくなさっていたのだけれど、意外にも平気そうにお返事なさる。
「お気の毒なご降嫁でございますね。私の方がお恨み申し上げるなどありえません。姫宮様が目障りな者とお思いにならなければ、私はこれまでどおりこちらに住まわせていただきます。姫宮様の母女御様は私の父宮の妹宮でいらっしゃいますから、恐れ多うございますけれど私は姫宮様の従姉ですもの。そのご縁で多少はお認めくださいましょう」
あっさりと謙遜なさるから、源氏の君は驚いてしまわれる。
「そう物分かりがよいとかえって心配だけれど。本当にそう思って穏やかに過ごしてくれたら、私はますますあなたが愛しくなるだろう。悪口に耳を貸してはいけませんよ。世間というものは、根拠もないのに夫婦仲のことを勝手に噂しますからね。何も問題のなかった夫婦が、そのせいでぎくしゃくすることだってある。あなたは心を落ち着かせて、私の誠意を見ていらっしゃい。ただの想像でつまらない嫉妬などをしてはいけません」
これまで源氏の君のご正妻と世間から思われていた紫の上だけれど、幼いころの同棲から始まったなんとなくのご結婚なの。
内親王様がご降嫁なされば、そちらが正式にご正妻ということになる。
この微妙なお立場の変化を穏やかに乗り越えられるように、源氏の君は心構えをお教えになった。
