上皇様は心細くなっておられて、昔や今のお話を弱々しくなさる。
「今日か明日には死ぬだろうとぼんやり思いながら月日が経ちましてね。これではいけない、このままでは仏教修行の第一歩さえ踏み出せずに死ぬことになってしまうと、とにかく出家だけはしたのです。そうはいってももうほとんど寿命は残されていませんから、願っていたような本格的な修行はできないが、お経を読むことくらいはできるはずです。私などいてもいなくても変わらない人間だけれど、いつかは修行をするという夢があったから、仏様がこれまで生かしておいてくださったのでしょうね。自分でもそれに気づいていたのに、もっと早く修行を始めなかったことが悔やまれます」
ご出家なさった事情をお話しになってから、最大の心配事を切り出される。
「姫宮四人を捨てて出家することが心苦しいけれど、なかでも後見する人のいない宮のことがとくに心配なのです」
遠回しおっしゃるだけなことを、源氏の君はお気の毒にお思いになる。
それに、女三の宮様にご興味が湧いているのも事実なの。
「内親王様ともなりますと、やはり身近な方のご後見がなければ頼りないことでございましょう。東宮様は姫宮様たちのご兄弟でいらっしゃいますし、上皇様が『とくにこの姫宮を』とおっしゃれば、その一番ご心配な姫宮様のことを粗末になさるはずはないと存じます。しかし、帝という特別なお立場におなりになったときには、ご姉妹のお世話を表立ってなさるわけにもまいりませんでしょう。
姫宮様の安定したお暮らしのためには、やはりご結婚なさって、夫君から世話と保護をお受けになるのがご安心でございます。ご成仏の妨げになるほどのご心配ということでしたら、無難なお相手をお選びになって、内々にご結婚をお決めになっておかれては」
「私もそう思うのですが、それもなかなか難しいことなのです。いっそもっと早く決めておけばよかったのかもしれません。昔の帝のなかには、帝の位からお下りになる前に、姫宮のご立派な結婚相手を決めておかれた方も多いのです。私はとうに位を下りて、しかも今は出家の身ですから、そんな立派な婿を求められる立場でもないけれど、それでも譲れない条件はあるのです。
そうやって悩んでいるうちに病気はどんどん重くなっていくし、後悔したところで昔に戻ることはできないませんから、ただ焦ってしまいましてね。中納言がまだ独身だったころに、あなたに姫宮を預けておけばよかったと思うのですよ。今さらな上に図々しい話だけれど、『あなたが父親代わりになって、ふさわしい相手と結婚させてください』とお願いすればよかった。そうしたらあなたは中納言をお選びになったでしょう。太政大臣が先に婿にしてしまったから悔しい」
「息子の中納言は、お世話という点ではきちんとお仕えいたしましょうが、何事もまだ経験が浅く、姫宮様の夫として頼りになるほどではございません。恐れ多いことですが、この私がお世話させていただきましょう。とはいえ寿命があとどれほどもつか分かりませんから、そこは心苦しゅうございますが、私が心をこめてご後見申し上げましたら、上皇様のもとにいらっしゃる今と、それほど変わらずお暮らしいただけると存じます」
源氏の君はついに姫宮様とのご結婚をお引き受けなさった。
「今日か明日には死ぬだろうとぼんやり思いながら月日が経ちましてね。これではいけない、このままでは仏教修行の第一歩さえ踏み出せずに死ぬことになってしまうと、とにかく出家だけはしたのです。そうはいってももうほとんど寿命は残されていませんから、願っていたような本格的な修行はできないが、お経を読むことくらいはできるはずです。私などいてもいなくても変わらない人間だけれど、いつかは修行をするという夢があったから、仏様がこれまで生かしておいてくださったのでしょうね。自分でもそれに気づいていたのに、もっと早く修行を始めなかったことが悔やまれます」
ご出家なさった事情をお話しになってから、最大の心配事を切り出される。
「姫宮四人を捨てて出家することが心苦しいけれど、なかでも後見する人のいない宮のことがとくに心配なのです」
遠回しおっしゃるだけなことを、源氏の君はお気の毒にお思いになる。
それに、女三の宮様にご興味が湧いているのも事実なの。
「内親王様ともなりますと、やはり身近な方のご後見がなければ頼りないことでございましょう。東宮様は姫宮様たちのご兄弟でいらっしゃいますし、上皇様が『とくにこの姫宮を』とおっしゃれば、その一番ご心配な姫宮様のことを粗末になさるはずはないと存じます。しかし、帝という特別なお立場におなりになったときには、ご姉妹のお世話を表立ってなさるわけにもまいりませんでしょう。
姫宮様の安定したお暮らしのためには、やはりご結婚なさって、夫君から世話と保護をお受けになるのがご安心でございます。ご成仏の妨げになるほどのご心配ということでしたら、無難なお相手をお選びになって、内々にご結婚をお決めになっておかれては」
「私もそう思うのですが、それもなかなか難しいことなのです。いっそもっと早く決めておけばよかったのかもしれません。昔の帝のなかには、帝の位からお下りになる前に、姫宮のご立派な結婚相手を決めておかれた方も多いのです。私はとうに位を下りて、しかも今は出家の身ですから、そんな立派な婿を求められる立場でもないけれど、それでも譲れない条件はあるのです。
そうやって悩んでいるうちに病気はどんどん重くなっていくし、後悔したところで昔に戻ることはできないませんから、ただ焦ってしまいましてね。中納言がまだ独身だったころに、あなたに姫宮を預けておけばよかったと思うのですよ。今さらな上に図々しい話だけれど、『あなたが父親代わりになって、ふさわしい相手と結婚させてください』とお願いすればよかった。そうしたらあなたは中納言をお選びになったでしょう。太政大臣が先に婿にしてしまったから悔しい」
「息子の中納言は、お世話という点ではきちんとお仕えいたしましょうが、何事もまだ経験が浅く、姫宮様の夫として頼りになるほどではございません。恐れ多いことですが、この私がお世話させていただきましょう。とはいえ寿命があとどれほどもつか分かりませんから、そこは心苦しゅうございますが、私が心をこめてご後見申し上げましたら、上皇様のもとにいらっしゃる今と、それほど変わらずお暮らしいただけると存じます」
源氏の君はついに姫宮様とのご結婚をお引き受けなさった。



