野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上

(みかど)をはじめ、あちこちからお見舞いが届けられる。
加減(かげん)が多少よくなられたとお聞きになって、源氏(げんじ)(きみ)がお見舞いに上がられた。
上皇(じょうこう)様と同格のお(あつか)いを受けてはいらっしゃるけれど、おおげさなお行列にはせず、臣下(しんか)として(ひか)えめにご移動なさる。

上皇様は源氏の君にお会いできるのを待ちかねておいでよ。
愛する弟宮(おとうとみや)というのもあるけれど、この機会に(おんな)(さん)(みや)様のことをお頼みになりたいの。
正式なお部屋ではなく、上皇様が普段お過ごしになっているお部屋の方へ客席が用意された。
僧侶(そうりょ)のお姿になられた上皇様を拝見なさって、源氏の君は涙をこぼしておっしゃる。

「私たちの父君(ちちぎみ)であられる上皇様がお亡くなりになってから、世の中が何もかも(はかな)いものに思われまして、私も出家(しゅっけ)したいと願っておりましたが、あれこれが気にかかって()()げられずにおります。とうとう上皇様にまで置いていかれてしまいましたから、中途半端に願うだけだった自分が恥ずかしい限りです。その気になれば簡単に出家してしまえる身分だったころも、やはり(さまた)げになるものが多うございまして」