野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上

(おんな)(さん)(みや)様のご将来を上皇(じょうこう)様が悩んでいらっしゃることは、源氏(げんじ)(きみ)も人づてに聞いていらっしゃった。
そこへ内々(うちうち)のお使者(ししゃ)が来て上皇様のお考えをお伝えしたから、まずはご同情なさる。
「お気の毒なことだ。しかし上皇様がご寿命(じゅみょう)を気にして姫宮(ひめみや)を私にお預けになったとしても、たった三歳違いの私がどれほど後に残って姫宮様をご後見(こうけん)できるだろう。少しでも私の方が長生きすることになれば、どの姫宮様たちも私にとっては(めい)でいらっしゃるのだからお世話申し上げるつもりでいる。こうしてとくに女三の宮様をご心配なさっていると(うかが)ったからには、他の方よりも(ねん)を入れてご後見申し上げようとも思うけれど、人の寿命などどうなるか分からないものだから」

来年には四十歳というご自分のお年をお考えになって、<やはりもっと若い婿君(むこぎみ)をお探しになった方が>とお思いになる。
「ご後見だけならまだしもご結婚ということになると、私が上皇様につづいて出家(しゅっけ)したり死んだりするときに、かえってつらい思いをおさせしてしまうのではないだろうか。私としても心残りで心配になってしまう。

いっそ息子の中納言(ちゅうなごん)などはどうだろう。まだ年も若くて重々しさはないように思われるかもしれないが、私などより寿命ははるかに長いはずだし、将来は立派な政治家になりそうな人柄(ひとがら)だ。姫宮様の婿君にもふさわしいと思うが、ひどく()真面目(まじめ)で、ちょうど長年の恋を実らせたところだから、その点で上皇様は遠慮なさったのだろう」

あくまでご自分のこととはお考えにならないので、お使者は歯がゆい。
上皇様が悩みに悩んだ(すえ)にご決断なさったことなのだと、そのご様子をくわしくお話し申し上げる。
源氏の君は困ったように微笑(ほほえ)んでおっしゃる。
「深くお愛しの姫宮様でいらっしゃるから、どうにもこうにもご心配なのだろう。それなら(みかど)に差し上げなさったらよい。中宮(ちゅうぐう)様や女御(にょうご)様たちがすでにいらっしゃることなど何の問題もない。最後に入内(じゅだい)なさった方が一番帝に愛されるということもあるものだ。亡き上皇様の後宮(こうきゅう)でも、東宮(とうぐう)時代に最初に入内なさった皇太后(こうたいごう)様は相当(そうとう)な勢いでいらっしゃったけれど、ずいぶんあとになって入内なさった亡き入道(にゅうどう)(みや)様の勢いはそれ以上で、結局入道の宮様が中宮におなりになった。

そういえば女三の宮様の亡き母君(ははぎみ)は、入道の宮様の妹君であられるのだったな。ご姉妹(しまい)のなかでは入道の宮様の次にお美しいと評判(ひょうばん)の方だったから、ご両親のどちらに似ても女三の宮様は(なみ)のご器量(きりょう)ではいらっしゃらないだろうね」
少しご興味をお持ちになって、それをお使者にも(かん)()かせるようになさる。