野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上

姫宮(ひめみや)がもう少し大人らしくなるまで出家(しゅっけ)を待とうかとも考えたけれど、私の命はそれまでもちそうにない。だから急いで夫を決めて出家してしまおうと思うのだ。
やはり源氏(げんじ)(きみ)が一番安心できる候補(こうほ)(しゃ)だろうね。たくさん囲っていらっしゃる女君(おんなぎみ)たちのことは問題にしなくてよいだろう。それほどの身分の人はいないようだから、姫宮(ひめみや)は何も気にせず堂々としていればよい。

その他に候補になりそうな人は誰がいるだろう。たとえば兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)は、人柄(ひとがら)もよいし、私や源氏の君の弟宮(おとうとみや)であるから悪く言いたくはないが、少し風流人(ふうりゅうじん)すぎる。身分にふさわしい重々しさよりも軽やかさの方が目立つ人だから、姫宮の夫としては頼りないだろう。
あとは、この屋敷で事務長をしている大納言(だいなごん)が、私の出家後は姫宮の世話係になりたいと申し出ている。真面目な男ではあるが、あの程度の平凡(へいぼん)な男に姫宮をやるのはもったいない。昔から内親王(ないしんのう)婿(むこ)に選ばれるのは、ありとあらゆる点で特別に(すぐ)れた人物だった。姫宮を唯一(ゆいいつ)の妻としてただひたすら愛してくれそうだから、などという理由でありがたがって決めるのはよくない。

太政(だいじょう)大臣(だいじん)の長男である衛門(えもん)(かみ)が姫宮を欲しがっていると朧月夜(おぼろづきよ)尚侍(ないしのかみ)から話があった。(おい)の頼みだから、尚侍(ないしのかみ)はどうにか(かな)えてやりたそうだったよ。もう少し身分が高ければ候補に入れるべき人だが、まだ上級貴族ではないのだから難しい。内親王を妻にしたいと願って、二十歳を過ぎても(あせ)らず独身でいるのは立派な心がけではあるが。落ち着いた人柄で学問もよくできると聞く。将来は大臣(だいじん)にもなる人だろうが、今の時点で衛門の督では候補に入れるわけにはいかない」

結局お決めになれないの。
姫宮様は四人おいでなのに、(おんな)(さん)(みや)様のことだけを悩んでおられる。
正直なところ、他の姫宮様たちの方がご性格も安心で、後見(こうけん)役もついていらっしゃる。
そちらの婿(むこ)になる方が無難(ぶなん)なのに、求婚する人はいない。
上皇様が女三の宮様のことばかり気にかけておられるから、それを()れ聞いた人たちが、女三の宮様に過剰(かじょう)な期待をして求婚しているのよね。