野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上

上皇(じょうこう)様はおうなずきになる。
「私もやはり結婚させるのがよいと思う。夫の女性関係で姫宮(ひめみや)を悩ませるのは気の毒ではあるがね。内親王(ないしんのう)生涯(しょうがい)独身で気高(けだか)くいるのが理想とはいえ、親が亡くなったあと、ひとりで立派に生きていくのは難しいだろう。昔の男たちは()(ほど)をわきまえて内親王に手出ししようなどと思わなかったけれど、近ごろの女好きたちは平気で手を出そうとするらしい。
身分の高い親の家で大切に育てられていた娘が、親が亡くなった途端(とたん)、あっけなく身分の低い男の手に落ちて、親の顔に(どろ)()ることもよくあると聞く。(おんな)(さん)(みや)だってそうならないとは限らない。運命なんて分からないものだからね。だから心配なのだ。

親の決めた結婚ならば、たとえうまくいかなくなっても娘の責任にはならない。恋愛結婚は、最終的にうまくいけば世間も認めるだろうけれど、やはり結婚当初は軽率(けいそつ)な娘だと非難(ひなん)されるものだ。
とくにいけないのは、女房(にょうぼう)などが勝手に男を手引きして結婚させてしまうことだよ。娘には拒否も抵抗(ていこう)もできなかったことなのに、軽率でだらしない女なのだろうと世間から思われてしまう。姫宮はどうにも頼りない様子だからそれが心配だ。そなたたち乳母(めのと)や女房が勝手なことをしてはいけない。万が一にもそんな(うわさ)が流れたらとんでもない恥だ」
出家(しゅっけ)なさったあとのことが気がかりでならないご様子なので、乳母たちも困ってしまう。