若君は夢かとお思いになる。
<我ながらよく耐えた>
しみじみと雲居の雁のお顔をお見つめになると、姫君はこれ以上ないほど恥ずかしそうにしていらっしゃる。
「私があなたを一途に思いつづけていたから、内大臣様もついにお許しくださったのです。どうしてもっとうれしそうにしてくれないのですか」
姫君はお返事なさらない。
「お許しくださったあと、内大臣様のご次男が『妹が盗み出されてしまう』なんておっしゃったのですよ。まったく人聞きの悪い。それにしてはたやすくここまで入ってこられたけれど」
「世間にあなたとの噂が立ってからもう五年でしょうか、針の筵にいるような苦しい日々でした。私とのことをたやすく世間にお話しになったあなたのせいで、ずいぶん悩んだのですよ」
子どものようにふくれておっしゃるので、若君は少しお笑いになる。
「私は誰にも話していませんよ。内大臣様があからさまに私たちを引き離されたから、世間がたやすく勘付いたのでしょう」
立ち上がって、ご寝室の方へ姫君の手を引かれる。
「長い間苦労したような気がするけれど、こんなに酔ってしまっていてはもう何も思い出せない」
お互いの苦労を語り合うのは、今夜でなくてもよいわよね。
夜が明けそうになっても若君は素知らぬ顔でご寝室にいらっしゃる。
女房たちはお声をかけようにもかけづらい。
お屋敷から出ていかれる気配がないので、内大臣様は、
<さっそく婿気取りで朝寝坊をしていらっしゃるのだ>
と小憎たらしくお思いになる。
それでもすっかり夜が明ける前にはお帰りになった。
寝不足のお顔もお美しかったわ。
<我ながらよく耐えた>
しみじみと雲居の雁のお顔をお見つめになると、姫君はこれ以上ないほど恥ずかしそうにしていらっしゃる。
「私があなたを一途に思いつづけていたから、内大臣様もついにお許しくださったのです。どうしてもっとうれしそうにしてくれないのですか」
姫君はお返事なさらない。
「お許しくださったあと、内大臣様のご次男が『妹が盗み出されてしまう』なんておっしゃったのですよ。まったく人聞きの悪い。それにしてはたやすくここまで入ってこられたけれど」
「世間にあなたとの噂が立ってからもう五年でしょうか、針の筵にいるような苦しい日々でした。私とのことをたやすく世間にお話しになったあなたのせいで、ずいぶん悩んだのですよ」
子どものようにふくれておっしゃるので、若君は少しお笑いになる。
「私は誰にも話していませんよ。内大臣様があからさまに私たちを引き離されたから、世間がたやすく勘付いたのでしょう」
立ち上がって、ご寝室の方へ姫君の手を引かれる。
「長い間苦労したような気がするけれど、こんなに酔ってしまっていてはもう何も思い出せない」
お互いの苦労を語り合うのは、今夜でなくてもよいわよね。
夜が明けそうになっても若君は素知らぬ顔でご寝室にいらっしゃる。
女房たちはお声をかけようにもかけづらい。
お屋敷から出ていかれる気配がないので、内大臣様は、
<さっそく婿気取りで朝寝坊をしていらっしゃるのだ>
と小憎たらしくお思いになる。
それでもすっかり夜が明ける前にはお帰りになった。
寝不足のお顔もお美しかったわ。



