野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)

音楽会はくつろいだ雰囲気で続いている。
若君(わかぎみ)はわざとふらふらと席を立とうとなさる。
「すっかり酔ってしまいました。これでは帰れそうにありません。どこかで休ませていただけませんか」
ご長男にそうお願いなさると、内大臣(ないだいじん)様がおっしゃる。
「案内してさしあげなさい。私もひどく酔ったから、年寄りはお先に失礼しよう」

「ほんの少し花見にいらっしゃったあなたに妹をとられるとは。こんな手引き役をするのは、兄としては心配ですよ」
冗談をおっしゃりながら妹姫(いもうとひめ)のお部屋まで案内なさる。
「何年も遠くから花を思っていたことをご存じでしょう。私ほど一途(いちず)な男との結婚に、心配なさることなど何もありません。縁起(えんぎ)でもないことをおっしゃるのだから」
若君の余裕なご態度が(しゃく)ではあるけれど、ご長男も妹姫のやっとのご結婚に安心なさっている。