野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)

若君(わかぎみ)の長年にわたる恋がやっと(かな)おうとしていた。
内大臣(ないだいじん)様はもうお許しになるつもりでおられる。
さりげないきっかけを探していらっしゃると、四月のはじめ、内大臣(ないだいじん)(てい)(ふじ)の花が満開になった。
何もしないのは()しいほどの美しさなので、内大臣様は音楽会をなさる。
日が暮れるにつれて、花はしっとりと美しさを増す。

ご長男をお使者(ししゃ)にして、若君をお招きになった。
「先日はゆっくりとお話しできませんでしたから、よろしければこちらにいらっしゃいませんか。夕暮れ時の我が家の藤は見事ですよ」
おっしゃるとおり美しい藤の枝にお手紙は結ばれている。
期待に一瞬お胸がときめいたけれど、確信はお持ちになれない。
おそるおそるお返事をなさる。
「私が手折(たお)ってもよいということでしょうか、と内大臣様にお伝えください」
雲居(くもい)(かり)との結婚を許すという意味なのか、それともただの花見のお誘いなのか、若君にはお分かりにならない。
「すっかり自分に自信をなくしてしまっているのです。見当(けんとう)違いなことを申し上げていたら、あなたからお父君(ちちぎみ)にうまく言い訳なさってください」

<父君と若君のお考えは同じだと思うけれど>
お使者のご長男は、年下の友人がこの()(およ)んでも慎重(しんちょう)であることに苦笑なさる。
「さぁ、それではお(とも)いたしましょう」
「立派すぎるお供は気が引けますから、あなたは先にお帰りになっていてください」
若君はお使者を見送ると、源氏(げんじ)(きみ)のお部屋へ向かわれた。