夕方になってご参列の方々がお帰りになる。
桜はすっかり散り乱れて、霞であたりがぼんやりとしている。
内大臣様は大宮様がまだお元気だったころのことなどを思い出して、帰りがたいご様子でいらっしゃる。
若君もまた、もの悲しい夕方の景色に涙ぐんでおられる。
「雨が降りそうだ」
人々は騒いで帰り支度を急ぐけれど、若君は動く気になれず濡れ縁に座りつづけていらっしゃった。
<今だ>
内大臣様は若君に近づいて、お袖を少しお引きになる。
「私のことを憎んでおいでのようですね。大宮様に免じて許してくださいませんか。私ももう老い先が短くなりましたから、あなたに嫌われてしまうのは悲しい」
若君はかしこまってお返事なさる。
「伯父君を頼りにするようにと大宮様もご遺言なさいましたが、伯父君が姫君のことで私をお許しくださいませんので、ご遠慮申し上げておりました」
強い風とともにざぁっと雨が降りはじめて、皆様があわてて帰っていかれる。
まだ話し足りないようなお顔で内大臣様もお帰りになった。
<どういうお考えで突然おやさしいことをおっしゃったのだろう>
若君はほんの短い会話がいつまでも気になって、一晩中さまざまな想像をなさっている。
桜はすっかり散り乱れて、霞であたりがぼんやりとしている。
内大臣様は大宮様がまだお元気だったころのことなどを思い出して、帰りがたいご様子でいらっしゃる。
若君もまた、もの悲しい夕方の景色に涙ぐんでおられる。
「雨が降りそうだ」
人々は騒いで帰り支度を急ぐけれど、若君は動く気になれず濡れ縁に座りつづけていらっしゃった。
<今だ>
内大臣様は若君に近づいて、お袖を少しお引きになる。
「私のことを憎んでおいでのようですね。大宮様に免じて許してくださいませんか。私ももう老い先が短くなりましたから、あなたに嫌われてしまうのは悲しい」
若君はかしこまってお返事なさる。
「伯父君を頼りにするようにと大宮様もご遺言なさいましたが、伯父君が姫君のことで私をお許しくださいませんので、ご遠慮申し上げておりました」
強い風とともにざぁっと雨が降りはじめて、皆様があわてて帰っていかれる。
まだ話し足りないようなお顔で内大臣様もお帰りになった。
<どういうお考えで突然おやさしいことをおっしゃったのだろう>
若君はほんの短い会話がいつまでも気になって、一晩中さまざまな想像をなさっている。



