野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)

お庭の楽団(がくだん)だけでなく、御殿(ごてん)の貴族たちも音楽会をなさる。
場が盛り上がったころに(みかど)上皇(じょうこう)様、そして源氏(げんじ)(きみ)御前(ごぜん)にも(こと)が出された。
内裏(だいり)から取り寄せた由緒(ゆいしょ)正しい和琴(わごん)音色(ねいろ)に、上皇様はなつかしさを抑えきれずにおっしゃる。
「すばらしい(うたげ)になりましたね。今は内裏(だいり)の外で過去の人として暮らす私ですが、帝だったころにこのような紅葉(もみじ)の宴ができていたら、生涯(しょうがい)の思い出になっただろうと残念にも思われます」

「二十年前に亡き上皇様がなさった紅葉の宴を源氏の君は再現なさったのでしょう。私たちは亡き上皇様の皇子(みこ)ですから、これは私たちに三人にとって特別な宴でございますよ」
帝がやさしくおとりなしなさる。
実は源氏の君のお子であられる帝は、青年になってますますお美しくなられた。
源氏の君にそっくりだと思われていたけれど、中納言(ちゅうなごん)様にもよく似ていらっしゃる。
上品でご立派な雰囲気は帝が(まさ)っておられるけれど、生き生きとお美しいところは、ご新婚だからかしら、中納言様の方が上のような気もするの。

中納言様は笛をおもしろくお吹きになった。
歌をお歌いになった貴族のなかでは、やはり太政(だいじょう)大臣(だいじん)様のご次男のお声が別格だった。
源氏の君と太政大臣様のご一族は、お互いに輝きあうようなご関係でいらっしゃる。