野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)

源氏(げんじ)(きみ)はお庭の(きく)を折らせなさって、太政(だいじょう)大臣(だいじん)様にお声をおかけになる。
「覚えていらっしゃいますか。もう二十年も昔、ご一緒に青海波(せいがいは)を舞いました。(かぶと)()した紅葉(もみじ)が風で散って、代わりに菊を挿したのですよ」
太政大臣様ももちろん覚えていらっしゃる。
<あのときは源氏の君と(かた)を並べているつもりだったが、もうとても(かな)わないご身分になってしまわれた>
ご自分だって太政大臣という貴族として最高の地位でいらっしゃるけれど、上皇(じょうこう)様と同格(どうかく)におなりになった源氏の君は雲の上の人なのよね。

時雨(しぐれ)がさっと降りだした。
太政大臣様は、
「恐れ多い思い出でございます。今やあなた様は(あお)ぎ見る星でいらっしゃいますから」
とお答えなさった。