野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)

十月の紅葉(もみじ)(さか)り、六条(ろくじょう)(いん)行幸(みゆき)——(みかど)のお出かけ、があった。
帝だけでなく上皇(じょうこう)様までお越しになったから、世にもめずらしいことだと世間が騒いでいる。
源氏(げんじ)(きみ)も心を()くしてまばゆいほどのご準備をなさる。
まず午前中に馬場(うまば)御殿(ごてん)にお入りになり、昼下がりに春の御殿へお移りになる。
お通りになる道には、(とうと)い方々のお姿がよそから見えないよう(まく)()られ、美しい布が敷かれている。

紅葉は春のお庭も秋のお庭もすばらしいけれど、やはり秋のお庭がひときわ美しい。
春の御殿のお席から秋のお庭が(なが)められるように、視界をさえぎるものは撤去(てっきょ)してあるの。
帝と上皇様のお席から一段下がったところに源氏の君のお席が用意されていたから、帝は同格(どうかく)のお席にするようお命じになった。
立派なお(あつか)いだけれど、もっと父君(ちちぎみ)に対して孝行(こうこう)したいと帝はお思いになっている。

めずらしいお食事を差し上げて、皆様お酒にお酔いになる。
親王(しんのう)様や上級貴族の方たちもたくさんお越しになっているの。
日が暮れかかるころに音楽が始まって、見習いとして内裏(だいり)に上がっている貴族のお子たちが(まい)披露(ひろう)なさる。
亡き上皇様が帝でいらっしゃったころの行幸(みゆき)で、源氏の君が太政(だいじょう)大臣(だいじん)様と青海波(せいがいは)を舞われたことをどなたも思い出される。
もう二十年も昔のことだけれど、それだけ皆様にとって美しい思い出なのよね。

今回は太政大臣様の十歳のお子がとくにかわいらしく舞われたので、帝がお着物を脱いでご褒美(ほうび)としてお与えになった。
とても名誉(めいよ)なことで、父君(ちちぎみ)の太政大臣様がお礼の舞をなさる。