野いちご源氏物語 三三 藤裏葉（ふじのうらば）

大宮(おおみや)様がご存命(ぞんめい)のころと同じように、新婚夫婦が落ち着いた雰囲気でお住まいになっていらっしゃる。
＜あの幼かった子たちが＞
太政(だいじょう)大臣(だいじん)様はうれしくも寂しくもお思いになる。
お似合いのご夫婦だけれど、女君(おんなぎみ)は世間にときどきいる美人というくらいなのに対して、男君(おとこぎみ)は最高にお美しい。

祖母である大宮様を思い出していたところだったから、中納言(ちゅうなごん)様は目を赤くして、まだ少し悲しそうになさっている。
ご夫婦や老(ろう)女房(にょうぼう)たちが大宮様のお話をなさると、太政大臣様も悲しくなってしまわれる。
「小川の水が何を思って流れているのか私も知りたいけれど、亡くなった人のことを気にしすぎるのもよくありませんからね。大宮様はお亡くなりになり、その息子である私も年を取った。これからはあなたたちの時代です」

中納言様の乳母(めのと)は、太政大臣様が幼いおふたりの仲を引(ひ)き裂(さ)かれたことを忘れていない。
「私はずっと昔から、おふたりの時代が必ず来ると信じておりましたよ」
老女房たちも同じようなことを口々に言う。
中納言様は楽しくお聞きになるけれど、女君はきまりが悪くて恥ずかしがっていらっしゃる。