野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)

中納言(ちゅうなごん)におなりになると、女君(おんなぎみ)のご実家でのお暮らしは何かと手狭(てぜま)になった。
新婚夫婦は太政(だいじょう)大臣(だいじん)(てい)を出て、三条(さんじょう)という場所にある大宮(おおみや)様がお住まいだったお屋敷にお移りになる。
大宮様がお亡くなりになったあと荒れていたのを立派に修理なさった。
中納言様と女君は、幼いころこのお屋敷で大宮様に育てられたから、なつかしくお思いになる。
お庭の小さかった木は大きく成長して()(しげ)っている。
草木を整え、小川の掃除をおさせになると、なつかしい景色がよみがえった。

夕暮れ時におふたりはお庭をお(なが)めになって、幼かったころのことをお話しになる。
最期(さいご)までおふたりの幸せを祈っておられた大宮様はもうおられない。
どこにも行かずにお屋敷を守っていた(ろう)女房(にょうぼう)たちが、ご夫婦になって戻っていらっしゃったおふたりをうれしく拝見している。

中納言様が、
「小川の水は昔と変わらず流れているけれど、大宮様がどうしていらっしゃるか知っているだろうか」
とつぶやかれると、女君は、
「何も知らないような顔で楽しそうに流れておりますね」
としんみりなさる。
そこへ太政大臣様がいらっしゃった。
内裏(だいり)からお帰りになる途中、三条のお屋敷の紅葉(もみじ)の美しさに目を()めてご訪問なさったの。