野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)

三日間内裏(だいり)で付き添われた(むらさき)(うえ)が退出なさる夜、参内(さんだい)してきた明石(あかし)(きみ)にご対面なさった。
「三歳でお預かりした姫君(ひめぎみ)が今では女御(にょうご)様におなりになったのですから、私たちも古くからの友人といってもよいと思います。どうかしら。遠慮のない関係になってくれるかしら」
紫の上は親しみやすい口調(くちょう)でお話しかけになる。

明石の君がお返事申し上げる様子は、紫の上のご想像以上に上品だった。
<たかだか地方長官の娘とは思えない。源氏(げんじ)(きみ)がお愛しになったのももっともだ>
と感心なさる一方で、明石の君も紫の上の()(だか)(おんな)(ざか)りのご様子をまぶしく拝見している。
<こんなにすばらしい方なら、ご立派な女君(おんなぎみ)たちのなかで特別に大切にされていらっしゃっても当然だ。しかし、その方とこうして親しくお話させていただいている私も、少しは自信を持ってよいのでは>

でも、その自信はすぐに()(くだ)かれるの。
紫の上は退出の儀式(ぎしき)重々(おもおも)しくなさると、(みかど)から許可された特別な乗り物に乗って出ていかれた。
まるで女御様のようなお(あつか)いよ。
地方長官の娘である明石の君がこんなふうに扱われることはありえない。
これが身分の違いなのよね。