野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)

いよいよ明石(あかし)姫君(ひめぎみ)入内(じゅだい)なさる日。
内裏(だいり)にはご正妻(せいさい)が付き添っていかれるのがふつうだけれど、源氏(げんじ)(きみ)は迷っておられる。
(むらさき)(うえ)にずっと付き添わせるのはいかがなものだろう。この機会に生母(せいぼ)明石(あかし)(きみ)後見(こうけん)役に加えようか>

紫の上にご相談なさると、すんなりと賛成なさった。
「私もちょうどよい機会と存じます。姫君はまだ十一歳でいらっしゃいますのに、お仕えしているのが若い女房(にょうぼう)たちばかりで心配しておりました。乳母(めのと)たちはしっかりしておりますけれど、どうしても目の届かないところはあるでしょうから。私のいない間はご生母が付き添ってくだされば安心です」
お心のうちでは、
<ご生母も再会を待ちかねて(なげ)いているだろうし、姫君も近ごろは本当の母君(ははぎみ)を恋しく思われるようだ。私がわざと引き離していると恨まれたら困る>
という計算もおありなのだけれど。

明石の君はとてもよろこんで、夢がすべて(かな)ったような気がする。
女房の着物なども急いで立派に準備するの。
明石の君の母である尼君(あまぎみ)は、(もの)(かず)にも入らない自分の立場が悲しい。
<生母である娘が姫君の後見役になったとしても、尼姿(あますがた)の私まで姫君にお目にかかることはできないだろう。どうにかしてもう一度お会いしたいものだけれど>
その気持ちだけで命を長らえさせている。