明石の姫君が入内なさる少し前、賀茂神社のお祭りが行われた。
源氏の君と紫の上は特別席で行列見物をなさる。
賀茂神社のお祭りの見物というと、源氏の君には苦い思い出がおありになる。
亡きご正妻が若君をご懐妊中、見物にお出かけになったところで六条御息所と鉢合わせなさったの。
お酒に酔った家来同士が喧嘩をして、御息所の乗り物は壊されてしまった。
「亡き妻は自尊心の高い人でしたから、御息所を思いやってさしあげることができなかったのでしょうね。結局御息所の恨みを買うような形で、お腹にいた息子を産むと亡くなってしまいましたが」
御息所の妖怪が憑りついたことまでは、紫の上にはおっしゃらない。
「妻が残した息子は貴族として少しずつ出世していくかどうかの人生ですが、御息所の姫君は中宮におなりになった。あれほどご不運でいらっしゃった御息所がお亡くなりになって、姫君は幸運を手に入れなさったのです。それを思うと、私が死んだあと、あなたはどうおなりになるだろうと心配なのですよ。私が生きている間に好き勝手して過ごしたら、その分あなたが不幸になるかもしれない。だから私は思うまま生きることはできません」
つらそうにお話しになってから、貴族の方たちがいらっしゃるお席へお移りになった。
源氏の君と紫の上は特別席で行列見物をなさる。
賀茂神社のお祭りの見物というと、源氏の君には苦い思い出がおありになる。
亡きご正妻が若君をご懐妊中、見物にお出かけになったところで六条御息所と鉢合わせなさったの。
お酒に酔った家来同士が喧嘩をして、御息所の乗り物は壊されてしまった。
「亡き妻は自尊心の高い人でしたから、御息所を思いやってさしあげることができなかったのでしょうね。結局御息所の恨みを買うような形で、お腹にいた息子を産むと亡くなってしまいましたが」
御息所の妖怪が憑りついたことまでは、紫の上にはおっしゃらない。
「妻が残した息子は貴族として少しずつ出世していくかどうかの人生ですが、御息所の姫君は中宮におなりになった。あれほどご不運でいらっしゃった御息所がお亡くなりになって、姫君は幸運を手に入れなさったのです。それを思うと、私が死んだあと、あなたはどうおなりになるだろうと心配なのですよ。私が生きている間に好き勝手して過ごしたら、その分あなたが不幸になるかもしれない。だから私は思うまま生きることはできません」
つらそうにお話しになってから、貴族の方たちがいらっしゃるお席へお移りになった。



