野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)

明石(あかし)姫君(ひめぎみ)入内(じゅだい)なさる少し前、賀茂(かも)神社(じんじゃ)のお祭りが行われた。
源氏(げんじ)(きみ)(むらさき)(うえ)は特別席で行列(ぎょうれつ)見物(けんぶつ)をなさる。
賀茂神社のお祭りの見物というと、源氏の君には苦い思い出がおありになる。
亡きご正妻(せいさい)若君(わかぎみ)をご懐妊(かいにん)中、見物にお出かけになったところで六条(ろくじょうの)御息所(みやすんどころ)(はち)()わせなさったの。
お酒に酔った家来同士が喧嘩(けんか)をして、御息所(みやすんどころ)の乗り物は壊されてしまった。

「亡き妻は自尊(じそん)(しん)の高い人でしたから、御息所を思いやってさしあげることができなかったのでしょうね。結局御息所の(うら)みを買うような形で、お腹にいた息子を産むと亡くなってしまいましたが」
御息所の妖怪(ようかい)()りついたことまでは、紫の上にはおっしゃらない。
「妻が残した息子は貴族として少しずつ出世していくかどうかの人生ですが、御息所の姫君は中宮(ちゅうぐう)におなりになった。あれほどご不運でいらっしゃった御息所がお亡くなりになって、姫君は幸運を手に入れなさったのです。それを思うと、私が死んだあと、あなたはどうおなりになるだろうと心配なのですよ。私が生きている間に好き勝手して過ごしたら、その分あなたが不幸になるかもしれない。だから私は思うまま生きることはできません」
つらそうにお話しになってから、貴族の方たちがいらっしゃるお席へお移りになった。