野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)

お手紙はまだこっそりとお届けになる。
姫君(ひめぎみ)はお返事をこれまでのようにはお書きになれない。
女房(にょうぼう)たちが興味(きょうみ)津々(しんしん)で注目しているのに困っていらっしゃると、父君(ちちぎみ)内大臣(ないだいじん)様までお越しになってしまったの。

お手紙をご覧になる。
「あなたがいつまでもうれしそうなお顔をなさらないから、私はそれほど愛されていないのだろうかと悲しくて死んでしまいそうです。今朝は涙で()れた(そで)をしぼる元気も出ない」
甘えたように書かれたお手紙に、内大臣様は微笑(ほほえ)まれる。
「字がお上手になられた」
ご結婚に反対なさっていたことなんて忘れてしまわれたかのように婿君(むこぎみ)をおほめになる。

ご自分が姫君のお部屋にいつづけてはお返事を書けないのも当然だろうと、
「お待たせするのは恥ずかしいことですから、早くお返事をさしあげなさい」
とだけおっしゃってお帰りになる。
お手紙を届けたお使者(ししゃ)はご長男がおもてなしなさった。
いつもはこそこそとお使いをしていたから、今日は堂々と届けられたことがうれしくて、()()れとした表情をしているの。