月が出てきたので、お酒を飲みながら昔のお話などをなさる。
朧月のぼんやりとした光は風情があって、雨上がりの風が心地よく吹いていく。
梅の花の香りがあたり一面に漂う夢のような夜よ。
春の御殿の別のお部屋では、明日の裳着の儀式のあとの音楽会のために、楽器の準備をしているらしい。
貴族たちがたくさん来て予行演習が行われている。
内大臣様のご子息たちも少しお顔を出していらっしゃったから、そのおふたりと若君を源氏の君はお呼びになった。
こちらでも楽器を取りだして、宮様は琵琶、源氏の君は筝、内大臣様のご長男は和琴、若君は笛をそれぞれ演奏なさる。
内大臣様は和琴の名人だから、そのご長男も華やかにお弾きになる。
若君の横笛は、雲の上まで響きわたるようなすばらしい音色だったわ。
内大臣様のもうおひとりのご子息はお声の美しい方で、拍子をとりながらお歌いになる。
宮様と源氏の君もお歌いになって、突然の合奏だったけれど充実した音楽会になった。
お酒の杯を源氏の君にお渡しになりながら宮様がおっしゃる。
「鶯の声が聞こえるような気がいたします。すばらしい梅のお庭をずっと眺めていられたらよいのに」
源氏の君がお答えになる。
「梅の花の香りがお着物にしみこむまで、どうぞごゆっくりお過ごしください」
つづいてお杯を受け取られた内大臣様のご長男は、
「鶯のねぐらの枝が震えるほど笛の音を響かせてお吹きください」
と若君にお杯を回しておっしゃる。
若君は、
「風だって花に気を遣って避けて吹きますのに、私が笛の音をぶつけることなどできませんよ」
とお答えになったから、皆様でお笑いになった。
最後にもうおひとりのご子息にお杯が回って、おっしゃる。
「霞が月と花の間を邪魔しなければ、ねぐらにいる鶯も明け方になったと勘違いしてさえずりましょう」
ちょうどそのとおり明け方になって、皆様お帰りになる。
宮様への贈り物として、源氏の君はご自分用に作らせておかれたお着物と、新しい薫物をおあげになった。
宮様は乗り物のなかから、贈り物を届けた源氏の君の家来にお礼をお言伝なさる。
「見事なお着物と薫物ですね。これを着て帰ったら、恋人の家から朝帰りしたのかと妻に叱られてしまいそうです」
「情けないことをおっしゃる」
と源氏の君はお笑いになって、お返事を届けさせなさった。
「奥様はおよろこびになりますよ。おめでたいことがあったのだろうとお思いになるでしょう」
お返事を見て、宮様は<私の冗談に悪乗りをなさる>と苦笑いなさった。
宮様は求婚しておられた玉葛の姫君を右大将様に奪われ、独身のままでいらっしゃるのだもの。
内大臣様のご子息たちにも、源氏の君はおおげさにならない程度にご褒美をお持たせになった。
朧月のぼんやりとした光は風情があって、雨上がりの風が心地よく吹いていく。
梅の花の香りがあたり一面に漂う夢のような夜よ。
春の御殿の別のお部屋では、明日の裳着の儀式のあとの音楽会のために、楽器の準備をしているらしい。
貴族たちがたくさん来て予行演習が行われている。
内大臣様のご子息たちも少しお顔を出していらっしゃったから、そのおふたりと若君を源氏の君はお呼びになった。
こちらでも楽器を取りだして、宮様は琵琶、源氏の君は筝、内大臣様のご長男は和琴、若君は笛をそれぞれ演奏なさる。
内大臣様は和琴の名人だから、そのご長男も華やかにお弾きになる。
若君の横笛は、雲の上まで響きわたるようなすばらしい音色だったわ。
内大臣様のもうおひとりのご子息はお声の美しい方で、拍子をとりながらお歌いになる。
宮様と源氏の君もお歌いになって、突然の合奏だったけれど充実した音楽会になった。
お酒の杯を源氏の君にお渡しになりながら宮様がおっしゃる。
「鶯の声が聞こえるような気がいたします。すばらしい梅のお庭をずっと眺めていられたらよいのに」
源氏の君がお答えになる。
「梅の花の香りがお着物にしみこむまで、どうぞごゆっくりお過ごしください」
つづいてお杯を受け取られた内大臣様のご長男は、
「鶯のねぐらの枝が震えるほど笛の音を響かせてお吹きください」
と若君にお杯を回しておっしゃる。
若君は、
「風だって花に気を遣って避けて吹きますのに、私が笛の音をぶつけることなどできませんよ」
とお答えになったから、皆様でお笑いになった。
最後にもうおひとりのご子息にお杯が回って、おっしゃる。
「霞が月と花の間を邪魔しなければ、ねぐらにいる鶯も明け方になったと勘違いしてさえずりましょう」
ちょうどそのとおり明け方になって、皆様お帰りになる。
宮様への贈り物として、源氏の君はご自分用に作らせておかれたお着物と、新しい薫物をおあげになった。
宮様は乗り物のなかから、贈り物を届けた源氏の君の家来にお礼をお言伝なさる。
「見事なお着物と薫物ですね。これを着て帰ったら、恋人の家から朝帰りしたのかと妻に叱られてしまいそうです」
「情けないことをおっしゃる」
と源氏の君はお笑いになって、お返事を届けさせなさった。
「奥様はおよろこびになりますよ。おめでたいことがあったのだろうとお思いになるでしょう」
お返事を見て、宮様は<私の冗談に悪乗りをなさる>と苦笑いなさった。
宮様は求婚しておられた玉葛の姫君を右大将様に奪われ、独身のままでいらっしゃるのだもの。
内大臣様のご子息たちにも、源氏の君はおおげさにならない程度にご褒美をお持たせになった。



