内裏(だいり)での新年の行事が一段落したころに、源氏(げんじ)(きみ)六条(ろくじょう)(いん)薫物(たきもの)合わせを行われた。
入内(じゅだい)なさる姫君のための薫物——お(こう)をご自分で調合(ちょうごう)なさるのだけれど、女君(おんなぎみ)たちにも作らせて、どうせなら勝ち負けを決めようと思いつかれたの。
九州の地方長官から献上(けんじょう)された舶来(はくらい)の上等な原料の他に、二条(にじょう)(いん)宝物(ほうもつ)()からも歴史のある原料をお取り出しになる。
それを女君たちにお配りになって、
「どなたも二種類ずつ調合してください」
とお願いなさった。

裳着(もぎ)儀式(ぎしき)の参列者に配る記念品の用意だけでも(あわ)ただしい六条(ろくじょう)(いん)に、薫物の原料を(うす)で引く音がごろごろと鳴り響いているの。
源氏の君は(むらさき)(うえ)にも内緒(ないしょ)で、昔の(みかど)がなさったという由緒(ゆいしょ)正しい秘伝(ひでん)の調合をしていらっしゃる。
紫の上もご自分の離れについたてで囲った調合(ちょうごう)(しょ)をおつくりになって、薫物の名人だった昔の親王(しんのう)様の秘伝で調合なさる。
どちらもご自分の方がすばらしい薫物を作ろうとなさって、調合法などはお()らしにならない。
「匂いの深さ浅さで勝負いたしましょう」
と源氏の君は宣戦(せんせん)布告(ふこく)なさる。
大きなお子のおられる親とも思われない、若々しい競争心でいらっしゃる。

源氏の君は薫物を入れておく(つぼ)や、()くお道具も美しく用意なさった。
薫物合わせですばらしいとお認めになったものだけを壺に入れて、入内なさる姫君に持たせようとお思いになっているの。