野いちご源氏物語 三二 梅枝(うめがえ)

内大臣(ないだいじん)様は、明石(あかし)姫君(ひめぎみ)入内(じゅだい)のご準備を他人(ひと)(ごと)として聞いていらっしゃったけれど、やはりご自分も姫君に同じことをしてあげたかったと()やまれる。
雲居(くもい)(かり)は二十歳でいらっしゃる。
今が(おんな)(ざか)りで、もったいないほどお美しいの。
つまらなそうにしょんぼり暮らしておられるから、内大臣様はほとほと困っていらっしゃる。

若君(わかぎみ)があいかわらず平気なお顔をなさっているのも、内大臣様には(にく)い。
<弱気になってこちらから結婚を申し込んだら世間の笑い者になるだろう。あちらが許しを求めていたときに認めてしまえばよかった>
お心のなかで(なげ)かれている。
若君だけが悪いわけではないと分かってはいらっしゃるの。

(かたく)なだった内大臣様のご態度が少しゆるんだことは、若君も人づてにお聞きになっている。
でも、雲居の雁と引き裂かれてつらかったことを思うと、素直にお願いに行く気にはおなりになれない。
お心を落ち着けて、かといって他の女性に心を移すこともなさらない。
耐えられないほど姫君が恋しいけれど、
六位(ろくい)だったころに「姫君のご結婚相手にふさわしくない」と馬鹿(ばか)にした乳母(めのと)たちを見返してやりたい。三位(さんみ)中納言(ちゅうなごん)まで出世したら結婚を申し込もう>
と決めていらっしゃる。