野いちご源氏物語 三一 真木柱(まきばしら)

お屋敷ではご正妻(せいさい)(なげ)いていらっしゃる。
お子たちも悲しそうになさっている。
でも今の右大将(うだいしょう)様の目には入らない。
意外と浮気性(うわきしょう)な男性は、(じょう)が深いから女性の苦しみを思いやれることも多い。
でも、堅物(かたぶつ)な男性が一途(いちず)に思いつめるともう駄目(だめ)なのよね。

ご正妻はけっして誰かに(おと)るような方ではいらっしゃらない。
式部卿(しきぶきょう)(みや)様が大切にお育てになった姫君(ひめぎみ)で、世間からも重んじられていらっしゃるし、お顔立ちもお美しい。
ただ、妖怪(ようかい)()りついているせいで、この数年は精神的におかしくなっておられるの。
正気(しょうき)をなくされているときが多いから、もうずいぶん長くご夫婦仲は冷え切っているけれど、右大将様はかけがえのないご正妻として尊重(そんちょう)なさってきた。
そんな方が初めてお心をお移しになったのが玉葛(たまかずら)尚侍(ないしのかみ)様だったの。
尚侍様はたいそうお美しい上に、世間が疑っていた源氏(げんじ)(きみ)とのご関係もなかったのだから、それはもう夢中になっていらっしゃる。