右大将様がいらっしゃっていない昼間、源氏の君は玉葛の姫君のお部屋へお越しになった。
ずっとご気分が悪くて寝ておられたけれど、起き上がってついたてに隠れるようにお座りになった。
もう尚侍でいらっしゃるから、源氏の君も少しかしこまった態度をおとりになる。
無風流な右大将様を見慣れてしまわれた尚侍様には、源氏の君の美しく優雅なご気配がなつかしい。
思いがけないご結婚をしたご自分が恥ずかしくて涙をこぼされる。
源氏の君は少し姿勢を崩して、ひじ置きに寄りかかりながらしみじみとお話しなさる。
ついたての向こうを覗いてごらんになると、尚侍様はお顔が少しおやせになっているの。
それがまたお美しくて、ますますおかわいらしい。
<他の男と結婚させてしまうなんて愚かだった>
と後悔なさる。
「亡くなったあとに渡るという三途の川を、あなたは右大将に背負われてお渡りになるのですね。深い関係でもなかった私があれこれ言えることではありませんが、意外なことになってしまいました」
尚侍様はお顔を隠しておっしゃる。
「あの人に背負われるくらいなら、いっそ三途の川に沈んで消えてしまいたいと思います」
「そんなところで消えてしまってはいけませんよ。子どものようなことをおっしゃる。なんとしてでも極楽浄土へ行っていただきたいが、三途の川を通らずには行けないそうですからね。私がお手だけでも引いてさしあげられたらよいのだけれど」
静かに微笑んでお続けになる。
「思い知りなさったのではありませんか。私の馬鹿正直さも、安心できる男であったことも、世にもめずらしいことだったのですよ。さすがにもうお分かりになっただろうと胸を張っております」
尚侍様が本当におつらそうなので、お気の毒になって真面目なお話に戻られる。
「宮仕えの件ですが、恐れ多くも帝がお待ちになっていますから、少しだけでも内裏にお上がりなされませ。右大将がこれ以上あなたに熱中してしまったら、内裏で働くことなどできなくなるでしょう。このご結婚は私の希望とは違ったけれど、本当の父君である内大臣は満足なさっているようですからね。その点では安心です」
源氏の君のおやさしさがうれしくも恥ずかしくもあって、尚侍様はただただ泣いていらっしゃる。
それをご覧になると、源氏の君も無理なことはおっしゃれない。
内裏で働くときのお心構えなどをお教えになる。
右大将様がお屋敷へお引き取りになることなど、まったくお許しになるおつもりはない。
ずっとご気分が悪くて寝ておられたけれど、起き上がってついたてに隠れるようにお座りになった。
もう尚侍でいらっしゃるから、源氏の君も少しかしこまった態度をおとりになる。
無風流な右大将様を見慣れてしまわれた尚侍様には、源氏の君の美しく優雅なご気配がなつかしい。
思いがけないご結婚をしたご自分が恥ずかしくて涙をこぼされる。
源氏の君は少し姿勢を崩して、ひじ置きに寄りかかりながらしみじみとお話しなさる。
ついたての向こうを覗いてごらんになると、尚侍様はお顔が少しおやせになっているの。
それがまたお美しくて、ますますおかわいらしい。
<他の男と結婚させてしまうなんて愚かだった>
と後悔なさる。
「亡くなったあとに渡るという三途の川を、あなたは右大将に背負われてお渡りになるのですね。深い関係でもなかった私があれこれ言えることではありませんが、意外なことになってしまいました」
尚侍様はお顔を隠しておっしゃる。
「あの人に背負われるくらいなら、いっそ三途の川に沈んで消えてしまいたいと思います」
「そんなところで消えてしまってはいけませんよ。子どものようなことをおっしゃる。なんとしてでも極楽浄土へ行っていただきたいが、三途の川を通らずには行けないそうですからね。私がお手だけでも引いてさしあげられたらよいのだけれど」
静かに微笑んでお続けになる。
「思い知りなさったのではありませんか。私の馬鹿正直さも、安心できる男であったことも、世にもめずらしいことだったのですよ。さすがにもうお分かりになっただろうと胸を張っております」
尚侍様が本当におつらそうなので、お気の毒になって真面目なお話に戻られる。
「宮仕えの件ですが、恐れ多くも帝がお待ちになっていますから、少しだけでも内裏にお上がりなされませ。右大将がこれ以上あなたに熱中してしまったら、内裏で働くことなどできなくなるでしょう。このご結婚は私の希望とは違ったけれど、本当の父君である内大臣は満足なさっているようですからね。その点では安心です」
源氏の君のおやさしさがうれしくも恥ずかしくもあって、尚侍様はただただ泣いていらっしゃる。
それをご覧になると、源氏の君も無理なことはおっしゃれない。
内裏で働くときのお心構えなどをお教えになる。
右大将様がお屋敷へお引き取りになることなど、まったくお許しになるおつもりはない。



