日が暮れて雪が降りそうな空模様になってきた。
ご正妻は余計に心細くなってしまわれる。
「天候が荒れそうですので、お早く」
お迎えに急かされて、涙をお拭いになる。
姫君は右大将様にとてもかわいがられていらっしゃった。
<せめて父君に一目お会いしてからお別れしたい。ご挨拶もしないままお別れするのは嫌だ。もう一生お会いできないかもしれないのに>
うつ伏してしまって動こうとなさらない。
「そんなふうにしていては私がつらい」
母君はなだめようとなさるけれど、
<今にお帰りになるかもしれないもの。あと少しだけお待ちしよう>
とお思いになっている。
でもね、こんな日が暮れていくころにお帰りになるはずがないの。
姫君がいつも寄りかかって気に入っていらっしゃった柱がある。
ご自分たちが出ていったら、その柱は誰のものになるのだろうと悲しくおなりになる。
「私はいなくなりますが、大好きな父君も真木柱も、私のことを忘れないで」
柱の色に似た色の紙にお書きになって、柱の少しひび割れたところに差しこんでおかれた。
「また悲しいことを言って。たとえ父君や柱があなたのことを愛しく思ってくれたとしても、私たちはもうここにいるわけにはいかないのですよ」
悟りきったご様子で母君はおっしゃる。
このお気の毒な姫君のことは、これから「真木柱の姫君」とお呼びいたしましょう。
ご正妻は余計に心細くなってしまわれる。
「天候が荒れそうですので、お早く」
お迎えに急かされて、涙をお拭いになる。
姫君は右大将様にとてもかわいがられていらっしゃった。
<せめて父君に一目お会いしてからお別れしたい。ご挨拶もしないままお別れするのは嫌だ。もう一生お会いできないかもしれないのに>
うつ伏してしまって動こうとなさらない。
「そんなふうにしていては私がつらい」
母君はなだめようとなさるけれど、
<今にお帰りになるかもしれないもの。あと少しだけお待ちしよう>
とお思いになっている。
でもね、こんな日が暮れていくころにお帰りになるはずがないの。
姫君がいつも寄りかかって気に入っていらっしゃった柱がある。
ご自分たちが出ていったら、その柱は誰のものになるのだろうと悲しくおなりになる。
「私はいなくなりますが、大好きな父君も真木柱も、私のことを忘れないで」
柱の色に似た色の紙にお書きになって、柱の少しひび割れたところに差しこんでおかれた。
「また悲しいことを言って。たとえ父君や柱があなたのことを愛しく思ってくれたとしても、私たちはもうここにいるわけにはいかないのですよ」
悟りきったご様子で母君はおっしゃる。
このお気の毒な姫君のことは、これから「真木柱の姫君」とお呼びいたしましょう。



