外から家来がそっと声をおかけする。
「雪が少し弱まりました。夜が更けてしまいますので」
ご正妻にも聞こえるからはっきりと急かすことはしないけれど、今のうちに出発したいみたい。
お手つきの女房たちがご正妻に同情している一方で、ご正妻はお心をしずめて、ひっそりと物に寄りかかっていらっしゃる。
と思ったら、突然起き上がって、お香を焚くお道具をおつかみになった。
右大将様の背後から、なかに入っている灰を浴びせかけなさる。
信じられない行動に右大将様は呆然としてしまわれる。
細かな灰が目や鼻に入る。
はっとしてお手で払われたけれど、あたりにもくもくと立ち上っているから、急いでお着物をお脱ぎになる。
<正気でなさったはずがない。妖怪がご正妻を嫌われ者にするために仕向けたことだ>
女房たちはご同情する。
右大将様はお着替えをなさったけれど、灰はお髪のあたりまで舞い上がったから、あのご立派な六条の院にはとてもお行きになれない。
<発作とはいえ、こんなひどいことをされるのは初めてだ。ほとほと愛想が尽きた。しかし事を荒立てたら、源氏の君も式部卿の宮様も私をお責めになるだろう>
右大将様は冷静にお考えになって、深夜にもかかわらず僧侶をお呼びになるとお祈りをおさせになった。
妖怪を払うお祈りの最中も、ご正妻は大声でののしり叫んでいらっしゃる。
右大将様がご正妻をお嫌いになるのも仕方がないかもしれない。
「雪が少し弱まりました。夜が更けてしまいますので」
ご正妻にも聞こえるからはっきりと急かすことはしないけれど、今のうちに出発したいみたい。
お手つきの女房たちがご正妻に同情している一方で、ご正妻はお心をしずめて、ひっそりと物に寄りかかっていらっしゃる。
と思ったら、突然起き上がって、お香を焚くお道具をおつかみになった。
右大将様の背後から、なかに入っている灰を浴びせかけなさる。
信じられない行動に右大将様は呆然としてしまわれる。
細かな灰が目や鼻に入る。
はっとしてお手で払われたけれど、あたりにもくもくと立ち上っているから、急いでお着物をお脱ぎになる。
<正気でなさったはずがない。妖怪がご正妻を嫌われ者にするために仕向けたことだ>
女房たちはご同情する。
右大将様はお着替えをなさったけれど、灰はお髪のあたりまで舞い上がったから、あのご立派な六条の院にはとてもお行きになれない。
<発作とはいえ、こんなひどいことをされるのは初めてだ。ほとほと愛想が尽きた。しかし事を荒立てたら、源氏の君も式部卿の宮様も私をお責めになるだろう>
右大将様は冷静にお考えになって、深夜にもかかわらず僧侶をお呼びになるとお祈りをおさせになった。
妖怪を払うお祈りの最中も、ご正妻は大声でののしり叫んでいらっしゃる。
右大将様がご正妻をお嫌いになるのも仕方がないかもしれない。



