野いちご源氏物語 三一 真木柱（まきばしら）

「帝(みかど)のお耳に入ったら恐れ多い。しばらくは誰にもおっしゃいますな」
源氏(げんじ)の君(きみ)は右大将(うだいしょう)様に厳しく口(くち)止(ど)めなさったけれど、うれしさのあまり隠しておくことなどおできにならない。

それからしばらく経っても、玉葛(たまかずら)の姫君(ひめぎみ)は右大将様に打ち解ける気配(けはい)はなく、
＜思いがけないつらい運命だ＞
と沈(しず)んだままでいらっしゃる。
そのご様子に右大将様もおつらいけれど、やはりご自分のものにできたうれしさの方が勝ってしまう。
＜見れば見るほど美しい人だ。このような人を他の男にとられていたら＞
想像するとお胸がつぶれるような気がなさる。

手引きをしてくれた女房(にょうぼう)のことを仏(ほとけ)様と並べて拝(おが)んでいらっしゃるけれど、当(とう)の女房はすっかり姫君に恨(うら)まれてしまって顔向けができないでいる。
たくさんの求婚者がいらっしゃったのに、よりにもよって姫君が一番嫌っておられた人を仏様は救ってしまわれたみたい。

源氏の君も納得なさっていない。
悔(くや)しくお思いになるけれど、もうどうしようもないの。
＜内大臣(ないだいじん)は以前から右大将と姫君のご結婚を悪くないと思っていらっしゃったし、姫君もしぶしぶかもしれないが受け入れなさったということだろう。私が反対したら姫君の立場が悪くなるだけだ＞
ご結婚の儀式(ぎしき)をこれ以上なく立派になさって、右大将様を婿君(むこぎみ)としてお世話なさる。