野いちご源氏物語 二九 行幸(みゆき)

太政(だいじょう)大臣(だいじん)でいらっしゃる源氏(げんじ)(きみ)のお出かけとなると、どれほど地味になさっても行幸(みゆき)(おと)らないほど立派なお行列になる。
大宮(おおみや)様は婿君(むこぎみ)のご訪問におよろこびになった。
ご病気の苦しさも消えるような心地(ここち)がして、起き上がっていらっしゃるの。
ひじ置きにもたれながら座っていらっしゃるご様子は弱々しいけれど、お話は十分おできになるみたい。

「お目にかかって安心いたしました。それほどご重態(じゅうたい)とは見えませんのに、中将(ちゅうじょう)が驚きあわてて知らせてまいりましたから、心配してお見舞いに上がったのでございます。本当はもっと早くお(うかが)いすべきでしたが、近ごろは内裏(だいり)にもほとんど上がらず家に(こも)っておりまして、ご無沙汰(ぶさた)をして失礼いたしました。私よりもっと年を取った人でも、(こし)を曲げながら内裏でお役目(やくめ)を果たしていると申しますのに、私はまことに(なま)(もの)でございます」

「この年になれば体が弱ってくるのも仕方がないと思っていましたが、今年に入っていよいよお(むか)えが近いような気がしましてね、最後にもう一度あなたにお会いしたいと思っていたのですよ。今日こうしてお目にかかれましたから、また少し寿命(じゅみょう)()びた気がします。命が()しい年でもありませんけれど。
夫や子どもに先立たれてしまった人のことを、あれはつらそうだ、ああはなりたくないと思っていましたから、早くお迎えがきてほしいと願う一方で、中将が実に親切に看病してくれましてね。その姿を見ると、中将はもちろんあの姫のことも気にかかって、それで今日まで生きながらえてきたのです」
ひたすらお泣きになって、お声はお気の毒なほど震えているの。