野いちご源氏物語 二九 行幸(みゆき)

年が明けた。
源氏(げんじ)(きみ)は二月に姫君(ひめぎみ)裳着(もぎ)を行うつもりでいらっしゃる。
<これまでは結婚前の娘ということで、とくに氏神(うじがみ)様にお参りする必要はなかった。しかし(みや)(づか)えするとなったら、氏神(うじがみ)様にご報告しなければならないだろう。源氏の娘として勝手に内裏(だいり)に上げてしまったら、藤原(ふじわら)()氏神(うじがみ)様がお怒りになる。やはり内大臣の娘であると公表してしまった方がよい。どうせいつか誰かが気づくだろうし、私に悪意(あくい)があったかのように(うわさ)されたら困る。
なんだかんだ言っても、やはり親子の(えん)は他人が簡単に切れるものではない。どうせならきちんと私からお知らせしよう>

裳着(もぎ)の儀式で姫君の(こし)ひもを結ぶお役目(やくめ)を、内大臣様にお願いなさった。
そこで姫君が内大臣様のお子であると打ち明けるおつもりなの。
でも、あいにく大宮(おおみや)様が去年の冬からご病気でいらっしゃる。
「母が重病ですので、そのような晴れがましいお役目は」
とご辞退なさった。
近ごろは若君(わかぎみ)祖母君(そぼぎみ)のご病床(びょうしょう)につききりでいらっしゃるわ。

源氏の君はお困りになる。
<どうしたらよいだろう。大宮様がお亡くなりになれば、姫君も孫として()(ふく)されなければならない。今のままでは他人だから喪服(もふく)を着られず、(ばち)()たりなことになってしまう。やはり大宮様がご存命(ぞんめい)のうちに裳着(もぎ)を行って内大臣の娘だと公表しなければ。とにかく内大臣と直接話をしよう>
そうお考えになって、大宮様のお屋敷にお見舞いに行かれた。