翌日、源氏(げんじ)(きみ)玉葛(たまかずら)姫君(ひめぎみ)にお手紙をお送りになった。
(みかど)をご覧になりましたか。(みや)(づか)えしてみる気におなりになったのではありませんか」
そっけない白い紙にさりげなく書かれているのが美しい。
<見抜かれてしまった>
と姫君は苦笑いなさる。

朝霧(あさぎり)の上の雪雲(ゆきぐも)の、そのまた上の光のように恐れ多いところのお話でございますから、帝ですとか宮仕えですとか、私には実感が()きません」
姫君からのお返事を(むらさき)(うえ)とご覧になる。
女官(にょかん)として内裏(だいり)に上がったとしても、帝がどうお思いになるかは分からない。もしご愛情をいただくようなことになれば、私の養女(ようじょ)である中宮(ちゅうぐう)様に()()うことになって申し訳ないと悩んでいるのでしょうね。かといって内大臣(ないだいじん)()の娘として上がってご愛情を得れば、今度は弘徽殿(こきでん)女御(にょうご)様に申し訳がない。難しいところです。そういうしがらみのない女性なら、あれほど美しい帝のお姿を拝見して宮仕えを断る人などいないでしょうけれど」

「まぁ、恐れ多いことをおっしゃいます。いくら帝がご立派でお美しくても、それにつられて宮仕えがしたいなどと思うのは失礼でございましょう」
「いやいや、あなたこそ帝を拝見したら夢中になってしまわれるだろう」
源氏の君はからかわれる。
もう一度お手紙を送って、かさねてお(すす)めになった。
「恐れ多い帝の光なのですから、雲や(きり)などにさえぎられるはずがありませんよ。すばらしいお美しさも、宮仕えの魅力(みりょく)も、よくお感じになったでしょう。さぁ、ご決心なさい」

<宮仕えさせるにしても、誰かと結婚させるにしても、裳着(もぎ)儀式(ぎしき)をしてさしあげなくては>
女の子の成人式にあたる「裳着(もぎ)」のご用意をなさる。
源氏の君がなさることだから、自然と大がかりになっていくの。
<この機会に内大臣にも知らせよう>
とお決めになったから、ますます盛大なご準備が進んでいく。