玉葛(たまかずら)姫君(ひめぎみ)見物(けんぶつ)にいらっしゃっている。
お行列のお(とも)はどなたもそれぞれご立派になさっているけれど、やはり(みかど)ほどご立派な方はいらっしゃらない。
特別に赤いお着物をお召しになって、輿(こし)背筋(せすじ)を伸ばしてお座りになっていらっしゃるの。

父君(ちちぎみ)内大臣(ないだいじん)様にも注目なさる。
たしかに輝くようにお美しい(さか)りではいらっしゃるけれど、所詮(しょせん)「最高の貴族」くらいにしかお思いになれない。
姫君はじっと帝をお見つめになる。
源氏(げんじ)(きみ)によく似ておられる。でも、気のせいかしら、帝の方がもう少し風格(ふうかく)がおありでいらっしゃる>
帝や源氏の君のように優れてお美しい方は、なかなかいらっしゃらないわね。

姫君は六条(ろくじょう)(いん)で源氏の君や若君(わかぎみ)を見慣れているから、高貴(こうき)な方は皆、あのくらいお美しいものだと思っておられた。
だから、お供のどなたを見てもがっかりしてしまわれるの。
兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)様が通っていかれる。
右大将(うだいしょう)様も勇ましいお姿でお通りになる。
この方は色黒でお(ひげ)が濃いから、姫君は完全にご興味を失われた。
まぁね、男性のお顔が、お化粧した女性と同じくらい美しいはずはないのよね。
でも、まだお若い姫君はそれがお分かりでない。

源氏の君は近ごろ、内裏(だいり)での(みや)(づか)えを姫君にお(すす)めになっている。
<私などが内裏に上がったら、思いがけない恥をかくこともあるのではないだろうか>
とためらっていらっしゃったけれど、帝を拝見してお考えが変わった。
<何もお(きさき)様になるわけではないのだ。ふつうの女官(にょかん)としてお仕えして、たまに帝にお目にかかることができたら、すばらしく楽しそうなことだ>