野いちご源氏物語 二九 行幸(みゆき)

源氏(げんじ)(きみ)は恥ずかしくなってしまわれる。
古風(こふう)で世間知らずな方なのです。おとなしくなさっていればよろしいのに、しゃしゃり出てこられては私まで恥をかく。しかしお返事は差し上げてください。亡き常陸(ひたち)(みや)様がたいそう大切になさっていた姫君(ひめぎみ)ですから、軽いお(あつか)いをしては申し訳ない方です」
贈り物の箱のなかにもお手紙が入っていた。
「自分に腹が立ってしまいます。あぁ、唐衣(からごろも)。あなたのおそばにいられないのですもの」
もともと堅苦しいご筆跡(ひっせき)だけれど、お年を召してさらに頑固(がんこ)な印象になっている。

源氏の君はもはやあきれてお笑いになる。
「ずいぶんがんばってお考えになったのだと思いますよ。昔はそれなりに頼りになる女房(にょうぼう)がお仕えしていたけれど、今はご自分でお書きになるしかないから。こちらのお返事は私が書くとしよう」
皮肉(ひにく)をこめてお書きになった。
「これほどまでにめずらしいお(こころ)(づか)いはご無用(むよう)でしたのに。あぁ、唐衣(からごろも)、唐衣」

「唐衣がお好きな方でいらっしゃいますからね」
玉葛(たまかずら)の姫君に、ご自分が書いたお返事をお見せになる。
姫君は明るくお笑いになって、
「おからかいになってはお気の毒でございます」
とおっしゃった。

あら嫌だ、これこそ無用なことばかり長々と書いてしまったわ。