野いちご源氏物語 二九 行幸(みゆき)

裳着(もぎ)儀式(ぎしき)の当日、大宮(おおみや)様から遠慮がちにお祝いが届いた。
急なことだったのに、(くし)の箱など、とても美しい贈り物が整えられている。
(あま)の私がお祝いするのも縁起(えんぎ)が悪いかと思いますが、この長生きだけはあやかっていただきますように。源氏(げんじ)(きみ)からご事情は聞きました。よくぞ名乗り出てくださいましたね。私にとっては内大臣(ないだいじん)のお子でも源氏の君のお子でも、どちらでもよいのですよ。源氏の君は亡き娘の婿君(むこぎみ)ですから、どちらからしてもあなたは私の大切な孫です」
お手紙は震えた字で書かれていた。

源氏の君はご覧になっておっしゃる。
「痛々しいご筆跡(ひっせき)だ。昔は達筆(たっぴつ)でいらっしゃったけれど、お年には勝てないものですね。ご病床(びょうしょう)で、震えるお手でお書きくださったのだろう」